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「彼」:「も〜じょ〜?」
妙に過剰な甘ったるい声で「彼」がモジョを呼び出す。
その片手には今日の朝刊の新聞が握られていたが、「彼」はそのトップ記事に目を止めるなり、もう片方の手に握った コーヒーカップをテーブルに置き、モジョを呼び出した。
中々姿を現さない事に少しいらついた「彼」がもう一度モジョを呼び出す。その声に少し不機嫌気味のモジョがようやく「彼」の前に姿を見せた時、彼等のいる部屋の テレビの画面はニュース番組を放送していた。「彼」:「も〜じょ〜遅〜い!」
モジョジョジョ:「〜一体朝っぱらから何でスか?」
今だ目覚めた感の薄いモジョが眠い目を こすりながら尋ねる。そこに「彼」が今日の朝刊のトップ記事を付きつけた。
「彼」:「寝ぼけてる場合じゃないでしょ!これを読みなさい!」
ようやく記事に目を通したモジョの目がぱっちりと 見開いた…と言うより丸くなった。
その見出しには次のコピーが大きく踊っていたのだ。
「PPG失踪の危機に新たなるPPG降臨か!?」
思いっきり慌てたモジョがオリジナル PPGの保管してある機密ブロックに向かおうとした時、「彼」が止めた。「彼」:「落ちつきなさい!彼女達はそのままよ。…さっきアタシが確認した。」
モジョジョジョ:「…となると、 こいつ等は一体…」
コピーの周囲に掲載された写真には、彼等の知るPPGとよく似た、謎のPPGが映っていた。それをしばらく眺めて少し考え込んでいたモジョは、次の言葉を語った。
モジョ: 「…恐らくは…オリジナルPPGの製作方法と同じような手段で何者かがこいつ等を作ったに違いない。問題は…」
「彼」:「誰が、この子達を創ったか、かしら?」
やがて新聞をくしゃくしゃにして 放り棄てたモジョは、サイバーパフガールズ(CPG)を呼び出した。
モジョジョジョ:「出る杭は、潰す!」
やがて自動ドアが開き、そこからからCPGが瞬時に飛んできて、モジョの前に待機する。
そんな極限までに機能的なCPGを前に、モジョが指令を与える。モジョジョジョ:「…御前達の初陣だ!このガキどもの素性を調べろ。たいした能力がないのなら、その場でやっつけてもかまわん! いいな!」
モジョが三人を前に激を飛ばす。そして、三人は忠実に了解する。
バビロン:「…了解!」
ベルリン:「…了解!」
バミューダ:「…了解!」
指令を与えられたCPG三人の目が妖しく輝き、次の瞬間三人は緊急開閉口から一寸の狂いなく出撃していった。
その光景を傍らで傍観する「彼」は、今回はあえてモジョの行動に任せる構えだった。「彼」:「…ま、少しは退屈しのぎになりそうね。ぼちぼち世界征服も始めましょうかしら?」
モジョジョジョ:「我々に擦り寄るチンピラ共の手を借りるまでもない。俺様のこの最強の部下だけで十分だ!」
「彼」:「その割にはあの子達に関しては慎重ねぇ?」
モジョジョジョ:「悪党の弱点は自己に対して過信し過ぎる事だ。俺様は同じ失敗を繰り返す程サルではない!」
「彼」: 「…ま、あたしの下僕チャンは少々ワガママな所があるから…今回はアータに任せるワ。」
そんな「彼」の目線が、どこか別の方角に向けられていたのを、モジョは見逃してはいなかった。
一方。
世界征服宣言を実行した手前、幼稚園に通う事を放棄したプリンセスだったが、その後ろには彼女に絶対の服従を示した3人のクローンPPGが控えており、三人の内で最も知能の高いブラックジャックが参謀役として 彼女の謀略に一役買っていた。
同じ日の午前十時前後、モジョ達から遅れる事2時間余り、ようやくクローンPPG達から起こされたプリンセスは、遅い朝食を取りながらブラックジャックから今朝のタウンズビルの様子を 聞かされていた。プリンセス:「…ぬぁんですってェ!!!!?」
いつものヒステリックなプリンセスの叫び声が、彼女専用の豪華なリビングルームに響き渡る。
新聞のトップを飾るコピーPPGの写真に、食い入る様に視神経を集中させる彼女の目が、目に見えて怒りの余り血走っていた。プリンセス:「何よこのパチもんPPGは!!!!?このあたしを バカにしてるわ!!!」
その様を傍らで静観しているシャドーパフ・ガールズ(SPG)達だったが、3人の中で特に知能の高いブラックジャックが、怒れるプリンセスを宥めた。
ブラックジャック: 「…御怒りは御尤も…ですが、怒れるだけでは事態は良くはなりません、プリンセス」
プリンセス:「〜じゃあ、お前には何か良い考えでもあるっていうの?そうでないのなら承知しないよ!」
ブラックジャック:「…我等に刃向かう敵が現れたのなら、倒せばよいのです。その為に我々がいるのでは?」
核心を付かれたプリンセスは怒りも忘れて、自分でも意外な程素直に納得した。
プリンセス: 「…そう言われれば、確かにそうね?」
他のSPG2人は息を潜め、二人のやりとりを眺めていた。
やがて何かを思い出した様子のプリンセスが、ブラックジャックに語り掛ける。プリンセス:「…でも、 あんなどこの馬の骨とも知らない偽者に、あたしのPPGを使うなんてあたしのプライドが許さないワ!」
ブラックジャック:「…代りに適任の者が居ると?」
この言葉を 待っていたかのように、プリンセスが得意気に話す。
プリンセス:「…この間、調度うってつけのチンピラがウチに転がり込んでいるのよ。露払いにちょうど良い奴等がね…」
意味深気の笑いを浮かべた プリンセスが、モニター表示の指示を出す。
そして、彼女達の正面の3Dモニターに映し出されたのは、いかにも札付きの不良の様相を呈した、緑色の皮膚の人間達5人だった。
彼等は先の悪党三人の世界征服宣言を受けて、 プリンセスの元に厄介になっていたギャングリーンギャングだ。
彼等はプリンセスの下で世界征服の後の利益を目当てに、いち早くプリンセスの元にかけつけていたのだったが、その事を彼女は「彼」にもモジョにも打ち明けては いなかった。
生来、独占欲の強いプリンセスが他の同士二人と世界を平等に山分けする腹は全く無く、都合の良い味方を密かに仲間に引き入れていたのだったが、ギャングリーンギャングもその味方のグループの一つだ。そして、 プリンセスはそれらをも都合の良い捨て駒としてしか、考えていなかった。
だが、他人を利用しようとする腹は一方のギャングリーンギャングのリーダー、エースも同じだった。エース:「…いいかお前等、 くれぐれも繰り返し断っておくが、あのクソガキの前では絶対に口答えするんじゃねーぞ!分かったな!」
スネーク:「もちろんッス」
ビッグ・ビリー:「あ、あのさあエース…何であの、ク…クソ ガキに、…え〜と、何だっけ?」
リトル・アートロー:「どうして逆らっちゃいけないか、だろ!…でも何か考えがあるんじゃないの、エース?」
エース:「〜まあ聞けよお前等!」
改まったエースがさぞ得意気に語り始める。
エース:「…まず始めに、アイツはガキの癖に大層な金を持ってるだろ。それに…」
一同:「それに?」
エース:「あんなPPGの 偽者まで作っちまったじゃないか…って事は?」
一同:「〜って事は?」
エース:「…って事は、もっと凄い武器とか、イカすオモチャも隠し持ってるって事のあり、なんじゃないのかぁ?」
グラバー:「BU〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
スネーク:「なあるほど…そいつをかっぱらって大暴れするって事ッスね?」
ボコっっ!!!
大盛り上がりのスネークの頭を、だしぬけにブン殴るエース。
スネーク:「…テテ…何するんスかボス?」
エース:「話を最後まで聞け!それだけじゃないぞ」
その場を仕切り 直して、説明を再開するエース。
エース:「…そいつを奪って、プリンセスもモジョも「彼」も出し抜いて、俺達が世界を征服するのさ…この俺達、ギャングリーンギャングがな!!!」
リトル・アートロー:「それから何をやるんで?」
エース:「それからは俺達のやりたい放題だ!」
スネーク:「カツアゲも?」
ビッグ・ビリー: 「アイスもガムも食い放題?」
リトル・アートロー:「落書きもやりたい放題、こわしたい放題なんで?」
エース:「あたり前よぉ!!!」
一同:「YEAAAAAAAARRRRRRRR!!!!!!」
全員が大いに盛り上がった所で、首謀者のエースが皆を制した。
エース:「シャラップ!!」
皆が静粛になった所で、エースが話の続きを始める。
エース:「…喜ぶのはまだ先だ!その為にはな…」
説明を再開する彼の身振り手振りが、さらに熱を帯びる。
エース:「…表向きは あのガキに都合よく取り入って、上手い具合にチャンスを覗うのさ…!」
リトル・アートロー:「〜さすがエース!…でも、それだったら別にプリンセスをかつがなくても、モジョでも「彼」でもいいんじゃないの?」
エース:「…だからあ、なまじズル賢いサルやオカマ野郎より、幼稚園のガキの方が騙し易いってもんだろ?ガキなんてアメ玉くれてやりゃあ御機嫌なんだからなあ?」
先の先まで考えたと思われる エースの策略に、一同は驚嘆の声を上げた。
ビッグ・ビリー:「〜でさあ、エース…俺達、何すりゃあいいのかなあ?」
エース:「当面、ガキの相手は俺がやる。お前等は何もしゃべらず、ガキの機嫌を 損ねるような真似はするなよ!万事オレ様に任せて置け…」
説明が終わって、スネークが腕時計に目をやる。
スネーク:「…それにしても迎えが来ないッスね〜…オレ達、あのガキになめられてるんじゃ…」
ゲシッッ!!!!
再びエースの鉄拳がスネークの頭上に炸裂。
エース:「何度もガキガキ言うな!!聞かれたらマズイだろが!!!」
その時、彼等のいた部屋の一角の ドアが開き、SPGが迎えにやって来た。
リーダー格のブラックジャックが、丁寧な口調で応対する。ブラックジャック:「…お待たせしました。マスターが司令室にて貴方達にお話があるそうです」
エース:「…へへ…こりゃどうも〜」
早速、媚びへつらうエースの態度に唖然の子分4人だったが、エース同様粗相のないように卑屈な態度で、SPGの後に続く。
しかし、エースも他の4人も、目の輝きだけは飢えた猛禽類のように ギラギラと輝いていた。これら一部始終のやりとりを、部屋の一角に取りつけられた隠しカメラ越しに、プリンセスは眺めていた。
全て筒抜けだった5人の企みを半ば呆れ顔で聞いていた彼女は、モニターを切り替えるや、この言葉を 吐いた。プリンセス:「…所詮はチンピラね。隠しカメラにも気付かないなんて…」
同じ時刻、「彼」のアジト。
やや薄暗い「彼」の部屋に、二人の人物が招き入れられていた。
一人はピンク色のごわごわした毛に包まれた農夫風の男、もう一人は妖艶な衣装に身を包んだ長髪の女。
どちらも人の形を成していながら、 とても普通の人間には見えなかった。やがて、薄暗い部屋の最も明るい中央の椅子に腰掛けた「彼」が、ピンク色の男に声をかけた。
「彼」:「…まずはアータからねぇ、ファジー?」
ファジー・ラムキンズ: 「〜オラに、何の用だ?」
「彼」:「今日はねえ…アタシ、とおっても気分がいいから、たまには困ってる人の役に立ちたくてねえ…でファジー、あんた最近、困ってる事無い?」
いつもと変わらない気味の悪い 口調で話しかける「彼」。そこに「彼」が期待していた通り、ファジーが積もりに積もった不満をブチまける。
ファジー・ラムキンズ:「おお、よく聴いてくれたぁ!困ってるなんてもんじゃねえだ!」
激昂するファジーと対照的に、「彼」のうすら笑いが目に見えて大きくなる。
ファジー・ラムキンズ:「オラいつも口すっぱくして「オラの土地に入ってくるな!」って言ってるだども! それなのに…次から次へと…」
ファジーの怒りが頂点へと上り詰めるとともに、全身が怒張し、真っ赤に染まる。
ファジー・ラムキンズ:「オラの目の前で土足で入って来やがるだども!!!!」
しかし「彼」はファジーの怒りに臆せず、さらに怒りに油を注ぐ。
「彼」:「それだけじゃないんじゃない?」
ファジー・ラムキンズ:「当たり前だ!!!!オラは そういう余所者を追っ払ってるだけなのに…街の奴等はオラをまるで悪い事しているみたいに言いやがって…」
怒りで真っ赤のファジーの肩が、ワナワナと震える。
「彼」:「〜ふーん…確かに、街の連中もヒドイ事 言ってたワねえ…」
ファジー・ラムキンズ:「…何だって?」
「彼」:「アータの事、世間知らずでワガママの田舎者、だって…」
ファジー・ラムキンズ: 「…許さあああああああああああああんんんんんんんん!!!!!!!」
怒りが頂点に達するとともに、ファジーの咆哮が部屋全体を震わす。しかし「彼」は不思議にも動じない。その恐いまでに冷静な「彼」の様子を、妖艶な女が 興味深気に眺めていた。
ようやく怒りが納まって憔悴しきったファジーに、再び「彼」がささやきかける。ファジー・ラムキンズ:「…はぁ…はぁ…はぁ…でアンタ、オラに何の用だ…?」
「彼」:「さっきも 言ったでしょ〜…アタシ、今日は機嫌が良いから今日だけ特別に、人助けしたいのよ!」
ファジー・ラムキンズ:「…オラを助けてくれるのか?」
「彼」:「〜まあね…アータの深刻な悩みは 分かったワ…後は、アタシに任せなさい!」
怒り疲れてその場にへたりこんだファジーの肩を、「彼」が抱きかかえながら言った。
「彼」:「タウンズビルの奴等、アータの事、あんまり頭の良くない風に考えてるのね…だったら、 アタシがアータの頭、賢くしたげるわよ」
ファジー・ラムキンズ:「出来るのか?…オラ、本当にアタマ良くなるだか?」
「彼」:「もちろん!」
ファジーが自分に気を許した事を確認し、「彼」の眼が怪しく光る。
「彼」:「アータが賢くなれば誰にも文句を言わせなくさせる事だって出来るし、馬鹿にされる事だって無くなるワよ。それ所か…タウンズビルの奴等、もうじき アータの事、絶対にスーパーヒーローみたいにあこがれるようになるワ、きっと…」
ファジー・ラムキンズ:「…す…すげえぞ!あ、ありがとうなァ…」
いかにも頼り甲斐のある言葉を聞かされ、本気で「彼」に感謝するファジー。 すでにさっきの疲れなど何処かへ飛んでいったように、有頂天になって喜んだ。
話の内容がひと段落付いた所を見計らって、その場を静観していたもう一人の人物が、割って入る。
女:「いつまでレディーを待たせる気?こんな 寸劇を見せ付けるのが目的なら帰らせてもらうわよ!あたしだって忙しいんだから!」
「彼」:「〜物事には順番ってモノがあるのよ。アータの事も忘れてはいないから、もちっと待ってらっしゃい」
それから「彼」はファジーと 何らかの打ち合わせを約束させ、丁重に家に帰らせた。
ようやく次の相手と対面して、「彼」の表情もそれ相応のものに変わる。「彼」:「〜んまぁ〜…手間のかかる子程、楽しみなモノはないワね〜…そう思わない、セデューサ?」
セデューサ:「…じゃあ、アタシはそれ程手間がかからないって事なのね…って事は、好意的に受け止めていいのかしら?」
ようやく本題に入ったと見えて、「彼」の応対の態度が狡猾な態度に豹変する。
セデューサは 相変らず、斜に構えて話を続ける。「彼」:「貴女は御利口サンだからこっちの誠意を理解してもらえるのに時間がかかるワ…だから時間をかけて仲良くなりたいと思っているのよ、分かる?」
セデューサ:「…悪党 同士で仲良くしようだなんて…虫のいい話ね。ま、いいわ…そろそろ本音を話して頂戴?」
一旦、話の間を置いてから、「彼」が口を開く。
「彼」の目が怪しく輝き、口元が気味悪く歪む。「彼」:「アタシとおサルさんと、 お嬢チャンの3人で世界征服宣言を公表したのは、知ってるワね?」
セデューサ:「〜まあね」
「彼」:「〜だ〜け〜ど〜、おサルさんもお嬢チャンも、アタシの事を全然信用していないみたいで、 おのおの勝手に他の悪党を抱きこんで、アタシを出し抜こうと企んでるの〜っ」
セデューサ:「…そりゃあ、あたしとファジーを抱き込んでりゃあねぇ…」
「彼」:「何か文句 あるの?!」
セデューサ:「〜別に…」
「彼」:「そこで、純粋無垢なファジーちゃんとアータに、是非ともアタシの味方になって欲しいのよ〜…分かるぅ?」
一息、息をついて間を置いてから、 セデューサがややあきれ顔で話を続ける。
セデューサ:「…フッ…大体そんな事だろうと思ったワ」
左手を右腕の肘に、右手を頬にあてながら、余裕の表情で話を伺うセデューサ。
セデューサ:「…ま、あの 脳ミソ猿や小便臭い小娘と違って、アタシを優先して頼りにしたアンタの眼の付け所に免じて、ここはアンタの味方になる事、考えてもいいわよ」
その言葉を聞いて「彼」の表情がぱっと明るくなる。それこそ、それを目の当たりにしていたセデューサも 唖然となる位に。
「彼」:「〜んまあ〜有難う!!!やっぱりアータを観込んだアタシの勘は間違ってなかったのね!」
感激の余り、頬にキスしようとする「彼」を押し留めて、セデューサが話を続ける。
セデューサ: 「勘違いしないでよ…まだ考えてるだけなんだし!!…それに、アンタはあたしにどんな力を貸してくれる訳?」
「彼」:「力?」
セデューサ:「あの脳ミソ猿には『科学の力』小娘には 『金の力』があるのよ。味方になった連中にはそれなりの計算があったハズよ。で、アンタはあたしに何を施してくれるワケ?」
この言葉を聞いて、以外にも「彼」の表情が不敵に笑う。まるでその言葉を待っていた かのように。
「彼」:「…アタシには、これがあるワ…科学や金の力なんか目じゃないワよ〜ッ」
そう言って「彼」が右手を上げるとそのハサミ状の掌に、怪しい光に包まれた黒い物体が現われる。そして、その物体はセデューサの、 蛇のようにのたうつ髪の毛の動きに合わせて、不気味に躍動していた。
「彼」:「アタシにはこの『力』があるわ…欲望や憎悪…悪の心を糧にして、無限に増殖する、無敵のパワーがねえ…」
セデューサ:「それ…無害なの?」
恐怖と好奇心と期待に駆られたセデューサが問う。
「彼」:「無害ですってぇ〜?…こんなもの、悪党にとっちゃそれこそ力の源となるもの、 害なんてあるワケがないわ。…尤も、アータの心の中にほんの少しでも、やさしさとか愛とか…そんなつまらないモノが残っていたとしたら、話は別だけど…」
半ば挑発的に、掌の中の『力』を説明する「彼」。その 言葉に自尊心を刺激され、後に引くに引けなくなったセデューサの手が『力』に触れようとする。
表情が文字通り、強張っている。セデューサ:「…愛、ですって?」
『力』に指が接触する瞬間、彼女の全身にしびれるような 官能と刺激が駆け巡り、肉体の隅々まで『力』がみなぎる。
『力』の存在の実感を全身で確認し、セデューサが不敵な表情を浮かべる。セデューサ:「…そんなチンケな心…このあたしにあるワケがないだろ!あたしに必要なモノ… それは、あたしを未来永劫、永久に光耀かせ、飾り立てるものだけだ!」
セデューサが発したこの言葉と共に『力』が目に見えて彼女の全身を黒く覆い包み、のたうつ黒髪の一本一本が毒蛇のような怪物に変化 する。
彼女の感情の高ぶりとともに指先まで覆った『力』が、肘から先を鋭い刃物に変化させる。
そしてその奇怪な光景を、「彼」が満足気に眺めていた。セデューサ:「…うがあアアああアああ ああああアアアァァァ!!!!!」
殆ど悲鳴と化した絶叫と共に、彼女と『力』の融合は終了した。
『力』と完全に同化し、普段の姿に戻ったセデューサ。しかし、その瞳に自我の存在はもはや確認出来なかった。
再び「彼」を眺める 彼女の視線は、先程の自意識過剰なものと完全に異なり、主の指令を待つ従順な下僕のそれと化していた。「彼」:「〜アタシの『力』の感じはどうだったかしら、子猫チャン?」
セデューサ:「…はい、最高ですワ… マスター!」
やがて、又一歩、自らの野望に近付いた「彼」の不気味な笑い声が、彼の部屋全体を大きく揺さぶっていた。
その奇怪な高笑いを、「彼」の部屋の外から冷たい眼差しで傍観する、三つの影が あった。
ビースト:「…せいぜい今の内に浮かれておきな…その気色悪い顔を、その内苦痛と屈辱と絶望で歪ませてやる…!」
バーベキュー:「…それにしても、我々クローンPPGに対し、コピーPPGとは… きっと、他にも増殖していやがるに間違い無いだろう」
ビザール:「所詮は粗悪品の出来そこないよ!あたいにとっちゃ使い捨てものオモチャに過ぎないワ…」
バーベキュー:「早速、脳ミソ猿ん所のクローンが 動き始めたらしい…まずは高見の見物か」
ビースト:「勝手にやる奴はやればいい…最後に生き残るのは…!」
最後の決め台詞を吐き棄てる所で、ビーストは口を閉じた。そして、陽光を頑なに遮る鉛色の暗雲を見上げた。
そして、何か不吉な予兆を告げるかのように、雷鳴が鳴り響く。
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