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東京、新宿新都心。
季節は秋に差し掛かったにもかかわらず、その日は珍しく夏の残暑が猛威を振るっていた。
久々の猛暑に道行く人は心底うんざりしていたようだが、心のどこかでは 何処か嬉しそうでもある様であった。久々の真夏のような濃い青空に突如、何かが音も無く出現した。
それは、どこぞの古めかしい空想科学映画に登場するような、銀色の円盤だった。
一部の 隙も無く完璧に磨き上げられた滑らかな機体は、低い静かな唸りを響かせ、都庁の象徴であるツイン・タワーの上空まで降下してきた。その様子を、都心を行き交う群集が見逃すはずも無く、たちまち 広場という広場は野次馬で埋まり、渋滞気味の都心の道路をさらに混雑にしていった。
ほどなくして、警察や機動隊、報道関係のいかつい顔つきの人間達が、人ごみを掻き分け、ツインタワーに向かってゆく。突然発生したこの事態は、全国のあらゆる家庭へと中継で放送され、日本の大部分が固唾を飲んで、この成り行きを見守っていた。
場所はやや西南へ移る。
横浜市の、とあるショッピングモール。 モールの一角を占める家電専門店のテレビコーナーの前にも、この突然の事態を見守る群衆の塊が出来上がっていた。
その中に、明らかに下校途中の小学生の一群の姿があった。恒例のネット上での集会の席上、一方的に退席したままの状態であったキャシーは、それから周囲にも余り言葉を交わす事無く、孤独な時を過ごしていたが、彼女も又、この非日常的な光景に釘付けになっていた。 そして、それは彼女のクラスメイトや知り合いの生徒達も同様であった。
週末であった事もあり、これからの予定を話し合うのを兼ねて、キャシー達は週末になると、下校の途中はこのモールに立ち寄って 時間を過ごす事にしていたのだ。交換留学生として、マサトシと入れ替わる形で日本にやって来たキャシーは、マサトシの実家のある横浜の小学校に通っていた。
二人がネットを介して交際していた事実はそれぞれの 家族も承知の事だったので、キャシーがマサトシの家族の元でホームステイするのに、大して問題は起きなかった。又、友人を作るのが上手かったキャシーが異国の小学校においても、クラスに自然と溶け込むのにも さほど、時間はかからなかった。
とりわけ、彼女より一年下のマサトシの同級生達は、彼女の大切な友人となった。その理由は簡単明瞭、マサトシの友人でもあったからである。
マサトシの同級生達は彼とキャシーの 仲を事前に知っていたので、学年は異なるもののすぐにキャシーと下校を共にするようにもなっていたが、彼女のマサトシに対するぞっこん振りは、時として彼等を唖然とさせてもいた。展示してある大型のテレビに陣取った 大人達の、画面に向かってやや右側の隅っこ側に、キャシーは控え気味に画面を見入っていたが、その両脇を彼女のクラスメートが、その前方をマサトシの同級生達が食い入るように見入っていた。
キャシーの右隣のクラスメートは 人当たりのよさそうな感じの、小夜という名の少女で、さらにその右隣は飄々とした風体の、愁という名の少年である。彼女の左隣には鼻っ柱が強そうな雰囲気の、魅璃という名の少女が、起用に立ちポーズで頬杖をしながら中継を観賞 している。
キャシーの前に陣取って中継を見ているマサトシのクラスメートで、画面に向かって右端の少年は、落ち着きのない事でクラスに名の知れたタケオで、左隣の、いかにも文学少年という風体の光悦に話し掛けている。その 左隣はクラスで3番目に背が低い彰子という名の少女で、右隣の男子二人の話がうるさくてうざったい様子であった。最も左端の生徒は、今一つ存在感に乏しい麻癒という名の少女で、周りの興奮をよそに一人、淡々と画面を眺めている ようでもあった。4年生4人、5年生3人の計8人(キャシーも含む)は、せっかくの週末をどう過ごそうかと相談する為に、このモールを散策しながら時間を費やすのが習慣であったが、突然のこの中継に、その思案もそれぞれの 頭の中から、きれいさっぱいと吹き飛んだ。この8人はもちろんの事、周りの大人達も、中継されている光景の事実を目の当たりにするのが初めてだったからである。
タケオ:「なあ…何かこういう場面って、どっかの映画で見なかったっけ?」
光悦:「あのなあ〜これ、実況中継って言ってただろ?聞いてなかったのかよ!」
愁: 「静かに!」
彰子:「あんた達二人とも、ちょっと黙っててよ!聞き辛いでしょ!」
そうこうしている内、画面の向こう側の風景に、変化が始まった。
溶接やリベット、溝や模様一つない滑らかな円盤の底に、ハッチが回転しながら開け放たれた。
突如、円盤の底に空いた完全な円形の底穴から、 薄緑色かつ半透明の、液状の「何か」がツインタワーの上に降り注いだ。相当な粘度なのだろうか、その液体は容易に下に垂れる事無く、つきたての餅のように建物にへばり付いていたが、その周辺でその光景を見守っていた観衆の目に映った 次の光景は、驚愕すべきものだった。
その「何か」は建物を急速に消化吸収しながら、徐々に地上へと降りていったのだ。
当然、建物の周囲で事態を見守っていた観衆はたちまちパニック状態に陥った。恐怖の余り明らかに冷静さを 失った観衆は、我先へとその場から逃げ去った。その場から一刻も早く逃れようと、他人を踏みつけなぎ倒し、人込みを掻き分けていく有様は、まさしく地獄絵の一歩手前といった所だろうか。
冷静を保っているのか、それとも魂が 死んでいるのか、現場を中継しているビデオカメラは、その光景をありのままに全国に放送し続けていた。
そして、大型のテレビの前の、キャシーの周りの大人達も、顔面が蒼白になりながらも視線を動かす事は出来なかった。タケオ:「ワ〜オ…残酷シーン!!」
彰子:「あんた本当にいい加減にしなさいよ!」
魅璃:「…これってさあ、マジでやばくない?」
小夜: 「あっ画面が…」
画面はすぐに険しい表情のニュースキャスターの画面に変わり、防衛庁からの避難勧告を勤めて平静を保ちながら読み上げていた。
小夜:「これって…早く家に帰った方がいいんじゃない、 みんな?」
タケオ:「何言ってんだよ?何の為に正義の味方がいるのさ?」
ただ一人興奮気味のタケオが、視線をキャシーの方に流す。
魅璃:「あんたねえ、緊張感無さ過ぎだよ! それに、PPGは使いっ走りの便利屋じゃないんだよ!アンタ一体何回言ったら…」
愁:「説教は後で!それより俺達も…」
気が付くと、彼等の周囲の人影は明らかに急ぎ足で外へと向かっていた。気を抜いたら たちまち人の波に飲み込まれそうな状況だ。
一方、キャシーは周囲の混乱に取り残され、ただ呆然とブラウン管に釘付けだった。
先のネットの集会での気まずい出来事と目の前で起こった緊急事態で、すっかり平静さを失って いた。
不安と恐怖に震える左手を、麻癒が握る。
その感触で、ようやく気が付いたキャシーが、麻癒の方を振り向く。
麻癒は一言も口にしなかったが、以外にも気丈な瞳の色がキャシーに避難を促していた。光悦:「こっちだ!」
先に避難経路にむかっていた光悦が、遅れてきたキャシーと麻癒を誘導する。
そして、ブラウン管の向こうのニュースキャスターが、割り込んできた最新情報を読み上げる。 しかし、空になったモニターの前に、その内容を聞き入る者は誰もいなかった。
ニュースキャスター:「…只今入ってきた最新の情報によりますと、防衛庁はかねてより存在が確認されていたコピーPPG、APPGに 緊急出動の要請を発して、APPGは現在、この正体不明の生命体の排除に向かっているとの事です…」
再び、新宿新都心上空。
謎の薄緑色の粘液は、なおも周囲の建物を消化吸収し、その体積を増加させていた。無機物、有機物を問わず、手当たり次第に触れるを幸い、取り込んで成長するその脅威に、人々は恐怖した。
繁華街近くの裏通りもやがて、その粘液に飲み込まれてしまう事は時間の問題であった。
裏道の一角の、逃げ惑う群集によってひっくり返されたゴミ箱の陰に、汚れた雑巾のような猫の親子が隠れていた。母親らしい猫は群集の逃亡に 巻き込まれて踏みつけられ、思うように体が動かせない様子だった。その母親にすがりつき、盛んに母親に呼びかける子猫だが、母親はもはやそれに答える事も出来ない程、憔悴していた。
そして、猫の親子の目前に、緑色の粘液が迫る。
哀れな野良猫の親子が、目前に迫った「死」を前に、覚悟を決めたその時、三つの色のストライプが瞬く間に猫達をすくい上げた。
粘液の手が届かない遥か上空、傷付いた母猫とその子供を抱えた弁天が、粘液を睨みつける。その両脇に、 猫達を気遣う梅華と、粘液の様子を注視する芭蕉がいた。芭蕉:「あの通りにはもう人はいないはずだけど…どうやって闘うの?」
弁天:「近付けば溶かされちゃうし、…〜んもう何とかなんないのかヨ 梅華!?」
梅華:「まずは…あいつを凍らせて動きを封じてみるわ。それからじゃないと…とにかくこの街のど真中じゃ被害が大きくなる!芭蕉はこの子達を出来るだけ遠くに避難させて!弁天はわたしを手伝ってちょうだい!」
弁天:「どうすんのさ?」
梅華:「まずはあたしがアイスブレスで凍らせて、東京湾の沖に放り出すのよ!あそこなら被害が出なくて済むし…弁天は出来るだけ、あいつの注意を引き付けてくれない?」
弁天:「おまかせ!」
段取りを済ませた3人は、各自の持ち場へと散ってゆく。
周囲を食いつくし、消化し、際限なく巨大化する謎の生命体。その足元らしき部分に、梅華が渾身のアイスブレスを吹きかける。
たちまち凍りついてゆく軟体生物。それでもなおもがく生物の注意を、弁天がレーザーブラストで攻撃し引き付ける。
だが、軟体生物は動きを多少鈍くしたものの、凍りついた足元もものともせずになお進撃を止めようとしない。
息の続く限り辛抱強くアイスブレスを吹き続ける梅華だが、先に息切れを起こしてしまった。
咄嗟の判断で梅華を抱えて上空へと避難する弁天。なおも進撃する軟体生物。梅花:「…あたしのアイスブレスじゃ パワーが足りないみたい…芭蕉の力が必要だわ!」
弁天:「それにしてもあいつ、どこまで遠くに連れて行ったんだよ〜…」
その時、身体いっぱいに粘液を伸ばして、軟体生物の触手が二人の死角を突いて真下から 襲い掛かる。それに二人が気付くのと、触手が二人を飲み込もうとしたのは、全くの同時だった。
しかし、梅華と芭蕉が次に気付いた時、二人は別の上空に一瞬のうちに運ばれていた。
猛スピードで現場に戻ってきた芭蕉が、間一髪、二人を 別の場所へと移動させたのだ。弁天:「遅いよ!…でも、危機一髪だったな」
梅華:「〜ありがとう、芭蕉」
芭蕉:「あの子達はう〜んと遠い所に避難させたから大丈夫だよ?」
その言葉に唖然とする二人だが、気分を一新、軟体生物と対峙する。
梅華:「あたしのアイスブレスじゃ力が足りないみたい…芭蕉、あなたのスーパーパワーが頼りよ!」
弁天:「頼むから、一気に 凍らせてくれよ!」
芭蕉が力強く頷いて、精神を集中させる。
やがて、彼女の周囲の大気が急速に温度を下げ、それと共に氷で出来た、巨大な蛇のような物体が現れる。
目を閉じ、精神を集中させていた芭蕉が、カッと目を 見開いた時、彼女は巨大な氷の龍の上に乗っていた。これこそ芭蕉の持つスーパーパワーの一つ、氷の精霊である。
芭蕉が小声で意味不明の呪文らしき言葉をとなえて、軟体生物を指差すや、巨大な氷の精霊はまっしぐらに突進してゆく。
ニシキヘビが獲物を締め付けるように、軟体生物を巻き込む氷の精霊。軟体生物も触手を動かして、精霊の氷の身体を溶かそうとするが、触手がその身体にふれるや、触手は瞬く間に凍りつき、砕け散った!
その猛烈な凍気で、軟体生物は 瞬く間に、巨大な氷の塊と化した。芭蕉:「今がチャンスよ、二人とも!」
梅華、弁天:「せ〜の!」
二人が気合を合わせて凍りの塊を空高く持ち上げ、渾身の力をこめて、東京湾の遥か沖の方角へ と放り投げる。そして、水平線の向こうに、大きな水柱が上がる。
キャシーがホームステイ先の磯城乃家の自宅に、あわてた様子で帰ってきた時、居間ではマサトシの母親の真佐子と祖母の文が、食い入るようにテレビの画面を見守っていた。自分とは対照的に、さして慌てる様子でもない二人の様子に、おもむろに キャシーが尋ねる。
キャシー:「あの…何かあったんですか?」
文:「…ああキャシーちゃん?これ、これ…」
真佐子:「ほら、今あの娘達が大活躍してるわ!これなら、きっともう 安心ね?」
文が指差すブラウン管の向こうでは、ヘリコプターから中継されていると思われる、APPGと軟体生物との戦いの模様が映し出されていた。その画面の隅の方の、わずかに映っている別のヘリは、キャシーには見覚えがあった。
国家 保安委員会特別調査部と呼ばれる政府関係の調査機関のマークが張られたそのヘリには、専門のパイロットの他に、APPGを見守るある女性の姿があった。牧島満。
国家保安委員会特別調査部の特殊捜査官として、NSAやMI6からも任官を 受けている彼女は、モジョ達3人の世界征服宣言に際し、各国に散らばるコピーPPG達を支援するべくキャシーの前に現れた特別警察官である。しかし、非常事態を除いて普段は私服で任務に就いている彼女の風貌は、普通の成人女性のそれそのものであり、 恐らく性格的なものからという理由もあるのだろうが、公務員独特の堅苦しさは全く感じられなかった。そんな訳で、当初は彼女の役割に困惑して警戒していたキャシーも、次第に彼女に信頼を寄せるようになっていた。最近では、APPGの事はもちろんの事、 ごく私的な悩みをも、キャシーは彼女に相談するようになっていたのだ。
食い入るようにテレビに見入る文と真佐子の後ろで、キャシーも事の成り行きを見守っていたが、彼女の頭の中は全く別の関心事でいっぱいであった。 気まずい別れ方をして しまったマサトシの事について、相談しようか否か、その事だけが彼女の頭の中で延々とリピートし続けていた。
弁天:「〜さぁ〜て、ここから本番だよね〜?」
今まで散々、防戦一方でフラストレーションが溜まりに溜まっていただった弁天だったが、ようやく被害広がる心配の無い沖合いの海上での戦いに、気合は十二分だった。 そして、弁天が腕を振り上げるや、氷付けの軟体生物が沈んだと思われる跡に、巨大な竜巻が巻き起こる。
いつの間に出現していたのか、彼女は巨大な岩の龍の上に仁王立ちで、激しさを増す竜巻の回転を操っていた。そこから離れた脇で、梅華の操る 巨大な炎の龍が、長大な溶岩の剣を凍りの塊に無数に打ち込んでいた。
その直後、猛烈な水蒸気爆発が巨大な氷の塊と化していた軟体生物を木っ端微塵に吹き飛ばし、砕け散った残骸を竜巻が空高く舞い上げ、成層圏よりさらに上空へと運ぶ。弁天:「一丁上がりぃ!」
梅華:「例え宇宙空間で大きな塊になったとしても、地上に落ちる際の摩擦熱で燃え尽きる事間違いなしね!」
芭蕉:「〜じゃあ、今度は、あの猫ちゃん達を助けましょ? あの母猫、大怪我してるもん」
弁天:「…でさあ芭蕉、避難させた場所、ちゃんと覚えてるの?」
芭蕉:「…あ…」
無我夢中の避難劇だったので、詳しい場所など覚えてるはずもなく、芭蕉の思考が停止 する。その様子を見て頭を抱える弁天。
梅華:「…でもさあ、あたし達ならどんなに遠くても助けを呼ぶ声は聞こえるんだし…気長に待とうよ?」
そこに、事態を見守っていた満のヘリが近付く。
満: 「三人とも、御苦労様!被災の後処理はあたし達がやっとくからさあ、あなた達はキャシーん所に帰っておいでよ」
芭蕉:「でも満さん…行方不明の人とか、どうしたらいい?」
コクピットの脇の満が、頭を掻きながら思考を 巡らす。
満:「そいつは操作依頼を調べてからじゃないと、何とも言えないなあ…何はともあれ、又何かあったら電話するからさあ、それまで休んで頂戴。疲れてるだろ?」
梅華:「〜う〜ん…じゃあ、後は よろしく御願いします」
丁寧に窓の向こうの満に御辞儀する梅華。他の二人は現場を去るヘリに向かって手を振るだけだった。
弁天:「〜なんかあの人って、今一つ緊張感無いよね?」
芭蕉:「もうすぐ 夕方なんだよね?早く帰ろう?」
緊張感から開放されて、ほっとした趣でようやく三人は磯城乃家への家路に着いた。
夜8時過ぎの磯城乃家。
普段ならネット集会で楽しく過ごすはずのキャシーなのだが、今日ばかりは心配事の余りに、精神的に疲労困憊して、APPGを寝かしつけた後も何もする気になれず、ベッドに横になっていた。
そこへ、ドアを控えめに ノックする音が響く。そんな音にさえ関心を示さなかったキャシーだったが、静かにドアを開けて入ってきたその人物に、思わず飛び起きた。
満だった。キャシー:「…満さん!どうしてここに…?」
やや遠慮気味にキャシーの 部屋に入ってきた彼女の姿は、昼間にテレビで見た精悍な公務員のイメージから程遠い、カジュアルな服装に身を包んでおり、ごく普通の近所の年上の女性の印象そのものだった。
満:「ごめんね突然お邪魔して…もしかして寝てた?」
キャシー:「いえ…あの、その…何かあったんですか?」
満:「いやねえ、昼間はAPPGもオーバーワークだったでしょ?心配だからちょっと様子を伺いに寄ってみたのよ…でも、貴女もけっこう疲れてるみたいね?顔に 出てるワよ」
さすがに顔色だけは隠し切れなかったと思い、訳を話そうと切り出そうとしたキャシー。それより先に、満が切り出す。
満:「もしかして、まだ彼の事で、心配してるの?」
最近は個人的な悩みの相談にも 乗っていた満には、キャシーの心配事が分っていたようで、押し黙ってしまった彼女の隣に座り、何も言わずに彼女の肩を抱いた。
満:「だ〜い丈夫…マサトシ君だって絶対、貴女の事ほったらかしにしないって…今晩あたり、思い切って ネットで会ってみなさいよ?」
暖かい慰めの言葉をかけられ、顔を両手で覆い、感極まって泣いていたキャシーも、ようやく落ち着きを取り戻していた。
満:「あの娘達は何と言っても育ち盛りだから、さほど心配の様子は無い みたいね。一番深刻なのは…意外にも微妙な年頃の、貴女かもね?」
その言葉を不思議に思ったキャシーが、顔を上げる。
満:「…でも羨ましいわ…貴女と同じ年頃のあたしなんて、まだボーイフレンドなんていなかったもんね」
キャシー:「…もう、からかわないで下さい!」
そこに、見事なまでに絶妙なタイミングで、満の携帯電話のベルが鳴る。
満:「…了解。すぐに行きます」
凛々しい口調で応対する満。その様子を固唾を 飲んで見守るキャシー…しかし、彼女が電話の内容を尋ねた時、満が返した答えは、余りに意外なものだった。
キャシー:「…まだ何か事件ですか?」
満:「〜と思うでしょ〜…残業よ残業!さすが公務員だわ!もう ホント、やになっちゃうワ!」
いかにもうんざりした様子で愚痴をこぼす満。勤務中でさえこういう表情を隠そうともしない事をキャシーは知っていたので、少々気の毒に思いながらも、笑いを抑えきれなかった。
玄関先まで満を見送るキャシー。 去り際に、咄嗟に満が指摘する。
満:「…ようやく笑ったね。その方が、とっても素敵だよキャシー!」
そう言われて、あっけにとられる彼女が満の姿を追った時、満の姿はもう遠くに行っていた。
満: 「…国際指名手配?…セデューサ?…了解!早速警察庁に資料を送ります。…はい、科特班にもすぐに応援を…」
ザ・シティ・オブ・タウンズビル…
ミス・べラムの家で夕食の招待を受けたジーンは、マサトシと一緒にコピーPPG達を寝かしつけた後、いつものようにネットでの集会に入っていた。異なる状況といえば、本来なら画面の向こうにいるはずのジーンが、 マサトシの隣にいる事と、マリーナがマーシュの隣にいる事だろうか。
ジーン:「やあ、…そっちの美術品盗難事件の経過はどうだい?」
マリーナ:「それがね、インターポールの捜査線上から、セデューサが重要参考人 として国際手配されたみたいなんだけど…何でタウンズビルにいるはずのセデューサが、パリに出てくるのか、訳わかんない!」
マーシュ:「力仕事だったら何とかなるのでしょうけど、さすがに犯罪捜査じゃ…今の所FPPGもSPPGも出る幕がないわ。 どうしましょ?」
マリーナ:「そうそう!マサトシ…それからJPPGの様子はどうなった?ギャングリーンギャングにボコボコのされたって聞いて、心配だったんだけど…」
マサトシ:「あの娘達なら大丈夫。FPPGの御蔭で すっかり回復したし…ただ、まだ彼女達のスーパーパワーがはっきりしなくてさあ、それでジーンに手伝ってもらって、スーパーパワーを目覚めさせる為に訓練してるんだ」
ウォン:「そう言えば、ついさっき日本で、巨大アメーバみたいな生物が UFOから降りてきて、大変だったらしいぜ!明日、シンが無理やり日本に渡るって言ってたらしいけど…大丈夫か?」
マリーナ:「あれはKPPGの方がシンよりしっかりしてるから、彼女達に任せて大丈夫でしょ?」
ミハエル: 「しかし、新宿のど真ん中に現れたってニュースじゃ言ってたし…いよいよ、世界中が物情騒然って感じだな」
ベル:「そんな時の為に、私達PPGがいるんでしょ!」
ブレイズ:「その通りだぜベイビー!」
ビロウ:「こっちは暇で暇で…ストレスがたまる一方さ!早く敵と戦いたいぞ!」
ブリッツ:「だったら今すぐに日本に行ってみれば?結構タイムリーかもよ?」
バレル:「そんなにはやらなくても…私達には私達の役割が あるし、そんなに勝手に動かなくたって…」
ウォン:「…にしても、朝っぱらというのはちょっとしんどいなあ…眠り足りねえよ、ホント」
ジーン:「時差だけはさすがにどうしようもないからなあ。こっちが朝ならそっちは 夜中…その逆も然り。ぼやくなって」
ウォン:「…んじゃあ俺はもう一眠りするから、又な…」
マリーナ:「ちょっとぉ…あたしはまだ話し足りないのに…いけず!」
ミハエル:「〜ああいう性格 だからしょうがないって…さてと、オイラもまだ用事があるんで、失礼するよ」
ジーン:「ああ、又な」
マーシュ:「そう言えば、キャシーはどうしたのかしら?しばらく顔を見ないけど…」
ジーン: 「あの軟体生物の件もあるし…ちと気になるな」
マサトシ:「…キャシー…」
ふと会話が止まって、間が空いた時、回線に割り込んでウインドウが突如開く。
キャシーだった。
話題が話題だっただけに、本人以上に周囲の 驚きは意外なものだった。
キャシー:「…あ…あの…」
久々の集会に彼女の態度も、目に見えて緊張しているようだったが、それを見ていた他の4人の対応は、いつもと変わらない気さくなものだった。
マサトシ: 「〜よかったぁ無事で!新宿じゃ怪生物が出現していたっていうから、心配だったんだ」
真っ先に声をかけたマサトシの表情にも、安堵の色が戻る。
芭蕉:「そうなの!薄緑色で、ぶよぶよして気持ち悪い奴だったのよ!」
弁天:「おまけに手当たり次第に建物を飲み込んで成長するから、手に負えないったら…でも、カチンコチンに凍らせて、粉微塵にして宇宙に捨ててやったから、もう安心さ!」
梅華:「〜でも、キャシーはあたし達よりマサトシの事で頭一杯だった みたいで、ちょっと妬けちゃうけど」
突然、画面の周囲からAPPGが現れて、一方的に話し掛ける。
キャシー:「〜もう!」
マーシュ:「その様子なら、東京での騒動は解決した見たい ね?」
ジーン:「明日あたりに、ゴリ押しでシンがやってくるそうだ。よかったら面倒みてくれないか?」
キャシー:「…え、そうなの?」
マサトシ:「…うん、そうみたい…だね?」
マリーナ:「あの単純馬鹿ったら韓国が平穏そのものだから、自分で事件を解決しに行くんだって言って、日本にやってくるそうよ!KPPGの力を借りてね」
ジーン:「〜そういう訳だ。じゃ… 俺は早朝から学会に呼ばれてるんで、後は頼むよ、マサトシ」
マーシュ:「二人は積もる話もあるでしょ?私とマーシュもこれで引き上げるわ。じゃ…後は頼むわね」
マサトシ:「ちょ…積もる話って、マーシュ?」
ジーンは自分の部屋に引き上げ、マーシュとマリーナもウィンドウを閉じてしまい、ネット上にはマサトシとキャシーだけが残った。
マサトシ:「…でも本当に、無事でよかった!」
キャシー:「…あ…ありがとう…」
普段の陽気な印象と違い、久々に現れたキャシーの姿は、まだどこか気まずさを引きずっているように見えた。しかし久々に彼女が見たマサトシの表情は、いつもと変わらない明るいものだった。そんな彼女の様子を、さもじれったそうに眺めているAPPG。
梅華:「ほら、キャシーったら!」
キャシー:「…うん、…マサトシ、あのね…」
マサトシ:「ニュースで見たけど、APPGの活躍、すごかったよ!あんなスーパーパワーが使えるなんてさあ!」
キャシー:「JPPGの方は大丈夫?大怪我したって聞いて、マサトシ、すごく心配してるんじゃないかって思って…」
マサトシ:「マーシュのFPPGの回復能力のお陰だよ。今はジーンの協力で、JPPGのスーパーパワーを目覚めさせる為に 訓練中だよ」
キャシー:「そう…マサトシ、あのね…」
マサトシ:「何?」
キャシー:「…あの…その…」
次の言葉を切り出せないキャシー。それを察して、マサトシが彼女を励ます。
マサトシ:「近いうち、PPGを助ける為に、必ずこのタウンズビルに僕達が集結する時がやってくるかもしれない…それまでの辛抱だよ。きっと…」
キャシー:「…うん…きっと…そうだよね?」
画面の向こうのキャシーの顔は、 目に涙を浮かべ、何処か安心した様子で、ようやく微笑みを返す事が出来たようだった。それを見たマサトシもAPPGも、ようやく安心した。
キャシー:「マサトシ…ありがとう…」
その頃、日本海上空3000メートルを飛行中のKPPGと、それにつかまっているシンは…
ブラスト:「正規に政府のチャーター機で来日した方が、無駄な苦労せずに済んだのに…シン、頭の堅さにも程があるよ」
シン:「…うるせい!漢は黙って我慢するんだよ…へ〜クショイ!!!」
バースト:「…こりゃあ日本に着いたと同時に病院送りだな」
そして、4人が成田に 辿り着いたその日に、シンはバーストの予言通り、病院へ直行の憂き目に会う事となった。
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