第1話 「事件の始まり」 キャプター4

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 それからさらに数日が過ぎた。

 PPGに対する博士の風当たりは日増しに強くなり、人前で公然と彼女達を叱りつける事も多くなった。
 御仕置きと称して自宅に閉じ込める事も多くなり、市長の出動要請も勝手に無視する様になっていた。
 痺れを切らした市長と秘書のべラムが博士の自宅に乗りこみ、PPGへの冷遇を改めるよう強く警告したが、それでも博士は無視し続けた。そして、彼女達への虐待がエスカレートするのに比例して、バルドへの執着も異様に熱を帯び、それはもはや狂気とも 言うべき偏愛ぶりになっていたのだ。
 さすがに市長も博士を逮捕して刑罰を課そうとも考えたが、秘書のべラムがそれを止めた。
 そんな事をしたら彼女達の保護者がいなくなってしまうし、孤児院送りになった彼女達がかえってつらい思いをしてしまう 結果になると、べラムは市長を説得した。だがこのままではPPG出動の要請も出来ないし、犯罪が街をはびこると市長は反論した。

市長:「…全くどうしたものか…このままじゃ、タウンズビルの安全はままならんぞ。ミス・べラム!何か いいアイデアはないもんかのう…?」

ミス・べラム:「今は、ユートニウム博士を改心させる方が得策ですわ、市長。」

市長:「しかし、博士があんな調子で大丈夫なのかねぇ?ワシャ心配じゃゾ。」

ミス・べラム:「今度は私一人で、博士を説得してみます。」

市長:「何か秘策があるのかね、ミス・べラム?」

ミス・べラム:「いえ…でも、今は辛抱強く博士を説得するだけです。その内に 博士がああなった原因も何か分かるかもしれませんし…博士について、PPGにも話を聞いてみます。」

市長:「…頼んだゾイ。」

 有能な秘書べラムも、博士の変貌ぶりに何らかの原因を感じており、手がかりを手に入れる必要性を 強く認識していた。と同時に、最近博士の自宅で見かけるようになった、見なれない女の子の事が気にかかっていた。

 ユートニウム博士の自宅。

 今や狂気の虜となった博士はバルドを自分の寝室に閉じ込め、寝食を問わず生活の全てを彼女と共に 過ごしていた。しかし当のバルドはこの博士の異常な行動に恐怖すら覚え、姉達に助けを求めていた。
 ある日PPGが彼女の叫び声に応じてバルドを博士の元から引き離すと、博士はついに凶器を振りかざし、PPGに襲いかかるまでになっていた。

バターカップ:「…あのさあ、いよいよ博士、おかしいよ!絶対に病気だよ!…これじゃあ…」

バブルス:「私達も、バルドも、 可哀想…

ブロッサム:「こういうの…あんまり言いたくないけど、病院に連れていった方がいいかもしれない…バターカップの言うとおり、博士は…病気かも!」

バブルス:「じゃあ、早く連れて行こう!病院に!」

バターカップ:「でも、どうやって救急車を呼ぶ?電話は博士がみんな壊しちゃったし…」

ブロッサム:「私が市長サンの所に行って、救急車を 呼んでくる!二人は博士を御願い!」

 ブロッサムが直接、病院に向かおうとしなかった言動には、理由があった。博士が自分達の言葉に素直に応じない事は予想してあったので、市長に頼んで警察と一緒に、博士を病院に強制的に入院させようという考えで あった。
 意を決したブロッサムが市役所に向かい、残った二人も博士の様子をうかがったが、博士は寝室にはいなかった。代わりに、ぬいぐるみや玩具に埋もれたバルドが身動き取れずにもがいていた。

バターカップ:「バルド?無事だったのね!」

バブルス:「博士、いないよ?」

バルド:「博士は研究室に行ったみたい。何をするのか、分んないけど…」

 おもちゃの山からバルドを救い出し、真っ先に バターカップが研究室に飛んでいく。バブルスも後に続く。
 バターカップが研究室の入り口前にたどり着いた時、ドアに鍵はかかっていなかった。
 慎重に取っ手をひねり、音をたてないように静かに扉を開き、奥の様子を覗うバターカップ。意外というか 当然というか、明るめの部屋の明かりの中で、入り口に背を向け、机の上で何か作業をしているらしい博士の姿が、彼女の視界に入った。
 チャンスと思ったバターカップは、慎重に博士の背後に迫った。不意打ちの一撃を加えて、博士を気絶させて連れ出す考え だった。
 …しかし、博士の背後まであと一歩という所まで近付いたその時、博士が振り向いた。
 その両手には何か、光線銃らしい武器を握り、逆に不意を付かれたバターカップに銃口を向けていた。

博士: 「消えろ!!」

 叫び声と共に、光線銃が火を吹く。
 辛うじてエネルギー波をかわしたバターカップだったが、不意を付かれて精神的に劣勢に追い詰められていた。そんな彼女に博士の光線銃の攻撃が容赦なく浴びせかけられる。

博士:消えろ!消えろ!!消えろ!!!消えろ!!!!消えろ!!!!!消えろ!!!!!!消えろ!!!!!!!消えろ!!!!!!!!不良品は消えろ!!!!!!!!!

 備品も 装置も辺り構わず、博士の放つエネルギー波が破壊し尽くし、黒焦げにした。そして無数に放った弾の一発がバターカップの胴体に命中した。
 光線の当たった彼女の衣服は黒く焦げ、衝撃で彼女は壁に叩きつけられた。
 その衝撃音を聞きつけ、バブルスが 現れた。

バブルス:バターカップ!

バブルスの目に映ったバターカップは壁に激しく打ちつけられ、胴に無残な焦げ後が付けられ、強大なダメージに憔悴していた。
 さらに彼女の 視界に入った博士の目は、正気ではなかった。

博士:「まァだいたのか…この失敗作不良品が!消えろ!!

 罵声と共にバブルスに銃口を向ける博士。だがバブルスは動けなかった。
 かつてあれほどバブルスが甘えた、バブルスが大好きだった生みの親は、完全に欲望と憎悪の権化となっていたのだ。
 そして幼いバブルスは、この現実を認識できず、頭の中が 真っ白になっていたのだ。

博士:「消え失せろ!!!!」

 博士が引き金に力を入れようとしたその時、バブルスの前に飛び出した影があった。それと同時に銃口が火を吹いた。

 バブルスの前に立った影はバルドだった。

 そして一瞬博士の手元が狂い、銃口がぶれて発射された光線は、僅かにバルドの衣服をかすめ、バブルスの自慢のブロンドの髪を焦がしていた。
 緊張の余り全身が強張っていたが、バルドが勇気を振り絞って 博士に向かって叫ぶ。

バルド:「博士…あたしのせいなのね…あたしが生まれたから…お姉ちゃんを、消すのね!…なら、私を最初に 撃って!

 バルドは夢中だった。

 緊張と恐怖で脚はがくがくと震え、少しでも気を抜こうものならすぐに尻餅を付きそうな位緊張していた。
 ただ、姉達を助けたいという純粋な気持ちだけが、バルドを立たせていた。
 自分が溺愛した、この可憐な少女の意外な迫力に、博士も銃を握ったまま、身動きが取れなかった。
 バルドと博士が目を合わせたまま対峙している時、バルドの後ろで思考が停止したままだったバブルスが、正気に戻った。
 そして、思考が再び 働き始めたバブルスの口から漏れたものは、悲鳴だった。

バブルス:「…ぅわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 天を裂き地をを震わせ、大海をも割らんばかりのこの金切り声に、研究室全体が激しく振動した。
 バターカップも博士も思わず耳を押さえてうずくまり、バルドはその衝撃で弾き飛ばされ、意識を失った。
 そして、その絶叫は博士の 自宅の一部を破壊し、タウンズビル中に響いた。

 その声を市役所で聞いていたブロッサムの全身に、緊張が走る。
 調度ブロッサムはミス・べラムに頼んで救急車の手配をしてもらっていた最中だった。

市長:「…一体何じゃあの声は!?」

ミス・べラムバブルスですわ、市長」

市長:何ィ!

ブロッサム:「私は先に戻ります!…だから救急車を御願い!」

ミス・べラム:「すぐに病院に手配させるわ!」

 言うが早いか、矢のように自宅に向かうブロッサム。

 その頃、博士の自宅から飛び立つ一筋の青い光があった。その後には、天気雨のような涙の粒が降り注いでいた。

 ようやく絶叫が収まり、意識を回復したバターカップの視界に、武器を放り投げ、両手で耳を押さえてうずくまる博士の姿が映った。
 その傍に、壁に体を預けるように倒れているバルドの姿があった。
 徐々に回復する意識と共に、胴の傷を手で押さえて 立ちあがるバターカップの脳裏に、物凄い怒りの感情が湧き上がる。
 そして、ようやく顔を上げた博士の前に、全身を憤怒の炎で燃え滾らせたバターカップの姿があった。

バターカップ:「博士…」

 彼女の意識には、博士が 錯乱した余りバルドを撃ち殺したという光景が渦巻いていた。

 そして、次の瞬間、

バターカップ:「…馬鹿野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!! !!!!!!!!!!!!!」

 怒りの叫びと共に、バターカップの渾身のカウンターパンチが、博士の顔面に、胸に、腹に、炸裂した。
 そして、その無数のパンチの衝撃で、博士の身体を研究所の壁ごと吹き飛ばした。

 ブロッサムが破損した 研究室にたどり着いた時、そこには服の一部を焦がし、気絶したバルドが倒れていた。博士も、バブルスも、バターカップの姿も、そこにはなかった。

ブロッサム:「…何が、あったの?」

 何が何だか分らなくなったブロッサムだったが、 とりあえずその場に倒れているバルドを介抱し、事情を聞こうとした。
 しばらくして、意識の回復したバルドの視界に、ブロッサムの姿が映った。

バルド:「…あ…ブロッサム…?」

ブロッサム:「大丈夫?バルド、 一体何があったの?」

 ようやく視界がハッキリしたバルドは博士の姿を探したが、例の光線銃だけが放り捨てられているだけで、彼女とブロッサムの他には誰もいなかった。

バルド:「そうだ!博士が…!!」

 バルドは、それまで 起こった一部始終をブロッサムに話した。
 途端に三人の事が心配になったブロッサムだったが、バルドの事も心配だった事もあり、三人を探せに行けずにいた。そこに、ミス・べラムが手配した救急車が到着した。
 ブロッサムは、車に同乗していたミス・べラムに バルドを預け、三人を探しに行った。三人の誰がどんな風に心配だったのか頭の中が混乱したままだったが、ブロッサムは心当たりのある場所を中心にくまなく探索した。
 しかし、時間が経ち、日が暮れる頃になっても、博士も、バブルスもバターカップも、誰一人 見つける事は出来なかった。

 日はとっくに暮れ、暗がりが広がり、ブロッサムの顔にも目に見えて疲労の色が色濃く浮かぶ。
疲れの余り一瞬、意識が途切れそうになったその時、聞き覚えのある不敵な笑い声が彼女の耳に入った。
 ふと声のした方向を 見下ろすと、そこに見覚えのある姿があった。

 モジョジョジョだ。

 よりによって都合の悪い時に、と思ったブロッサムはモジョを無視して飛び去ろうとしたが、その行動を彼のかけ声がストップをかけた。

モジョジョジョ: 「待てブロッサム!…御前の探し物は…これか?」

 モジョの後ろには大きな硝子ケースが二つ、台車の上に乗せられていた。そのケースは何かの液体に満たされており、肝心のその中身を確認したブロッサムは、戦慄した。

ブロッサム:「…あれは…!!!!!」

 二つのケースの中にはバブルス、バターカップの二人が液体の中で漂っていたのだ!

 怒りの余り平静さを失ったブロッサムが、ケースに向かって矢のように飛んでくる。しかしモジョはそれでも動じない。
 その 様子を見て一瞬、ブロッサムの思考に迷いが生じた次の瞬間、彼女の背後から謎の衝撃が走った。

ブロッサム:!!!!!!!!!!!!!!????

 猛烈な刺激と共に、急速な脱力感がブロッサムを襲う。
たちまち力を失い、木の葉の如く地上に落ちるブロッサム。余りの脱力感に、彼女は身動きすらままならず、衝撃の起こった方向に顔を向けるのがやっとだった。
そして彼女が目にしたものは、武器らしい機械を両の手にしたプリンセスの姿だった。

プリンセス:「…やったあ!!!最後の獲物を捕まえたワヨ!!!!」

 力なくうなだれるブロッサムの傍にモジョが近付き、つま先で彼女の身体を転がす。

ブロッサム:「…一…体…な…にを…」

 ブロッサムが残った力を振り絞り、この質問を発したとき、モジョが得意げに答えた。

モジョジョジョ:「あのお嬢チャンが手にしているのは、貴様達のスーパーパワーを吸収する特殊エネルギー 採取装置、名付けて『アンチXバキュームガン』だ!!!…御前はもはや、赤子の手をひねる程の力も残っていないのだ。分ったか?」

 モジョがこの言葉を発すると同時に、ブロッサムの意識が途切れ、彼女は気絶した。

プリンセス:「…これで最後の材料はそろったワね!」

モジョジョジョ:「ああ、わざわざ他の二人を囮にした甲斐があったものだな…いよいよ俺様の腕の見せ所だな!」

 程なく、プリンセス配下の者と思われる作業員が現れ、 ケースと気絶したブロッサムを隠してあったトレーラーに運んだ。
 他の二人と同様、ブロッサムも硝子ケースに収められ、特殊溶液に浸され、保存された。その作業を、プリンセスが興味深く見守り、モジョジョジョが監督する。
 的確かつ迅速に作業員に指示 を出すモジョの元に、携帯電話のベルが鳴る。

「彼」:「モ〜ジョ〜、どうだった?あたしの作戦?」

 咄嗟に携帯電話を取りだし、応対に出るモジョの耳に、生ぬるい「彼」の声が入る。

モジョジョジョ:「貴方の言う通り、 最後のサンプルも捕獲しました…作戦通りでした!」

「彼」:「…ま、アタシ達が力を合わせればこんなモノよ。後はよろしくね〜…」

 軽快な挨拶と共に電話が切れる。

モジョジョジョ:「…こんなモノ、か…」

 表面は「彼」の返事に合わせたモジョだったが、彼の脳裏には、プリンセスと「彼」の共同作戦とは別に、独自の思惑が静かに構築されていた。一方、肝心の他の二人でさえ、モジョとは別の思惑を秘めていた事も事実だった。
 しかし、今はそれを互いが互いに知る 由もなかった。


 ユートニウム博士が意識を取り戻したのは、病院の一室の中だった。

 博士の全身は湿布と包帯で覆われ、無理に動かそうとする度、鋭い痛みが走る。病院側の話によると、博士の自宅から数百メートルの茂みの中で倒れている彼の姿を、早朝の犬の散歩中の会社員が発見し、通報したと いう。
 発見当時、博士の容態は外見上深刻に見えたものの生命の影響は少なかったため比較的冷静に治療が施された。重度の全身打撲により全治1ヶ月の重症という診断結果にも関わらず、博士の関心は別の方向に向いていた。
 ようやく博士が両の目を開いた時、彼が探し求めた人物は 見当たらず、代わりに市長と秘書べラムが立っていた。手には見舞いの果物をかかえ、表情はどこかいぶかしげにも見えた。

市長:「…やっと目が覚めたかね、博士?」

 右目にかけた眼鏡をいじりながら、市長がやや呆れた調子で尋ねた。

市長:「一体、君とPPGの間に何があったのか知らんが、心当たりは聞いておくぞ。君の都合に関わらずな。」

 目の前の重症患者の様子もお構いなしに、市長が厳しい表情でこの言葉を語った。それに、博士がややもどかしげな口調で答える。

博士:「あの、 市長…」

市長:「…PPGがこの3日もの間、行方不明なのじゃが…」

ミス・べラム:「一体、三日前のあの日、博士と彼女達に何があったのですか?…それに、研究室のあの様子も…」

 ミス・べラムの後ろに、影で博士の様子を覗う小さな 人影があった。

 バルドだった。

 しかし、体勢を思う様に動かせない博士は、彼女の存在に気付いていない。市長とミス・べラムがPPGの事を質問した時、博士はバルドがいる事にも気づかず、自分に都合のいい、この言葉を語った。

博士:「さあ…私に もさっぱりで、…私が研究室で実験の準備をしていると、彼女達が突然、私に"殴りかかってきて…」

 しかし、市長もべラムも博士をにらみつけたまま、表情を変えない。
 実はバルドの口から、二人は三日前の経緯のおおまかな様子を聞かされており、実際に現場検証も 行い博士の行動の詳細をすでに把握していたのだが、残りの疑問点である「犯行の動機」を探るため、わざと知らない振りをしてして博士を誘導尋問しようとしていたのだ。もちろん、博士はそんな事もしるはずもなく、延々と自分に都合の良い答えを並べていた。

市長: 「ほおぅ…では、その前の、PPGに対する冷遇処置については、どういう問題があったのかね?」

博士:「実は、最近…実験で一人、PPGのメンバーの女の子を創ったんですけど、三人ともその子にひどくやきもちって言うか、嫉妬していた みたいで…」

バルド:「…嘘!!!!!!!!」

 その虚言を遮ったのは、半泣きで飛び出したバルドの叫び声だった。
 彼女を目の前にし、博士の口調がしどろもどろに乱れる。

バルド: 「…ブロッサムも、バブルスも、バターカップも…私の事、大切な妹だって、言ってくれたもん!わたしの事で…お姉ちゃん達、博士から冷たくされても、バルドは悪くないって、博士はこの頃おかしいって、言ってくれたもん!わたし だって…私だって、お姉ちゃん達、大好きだった。今でも大好きなのは変わってない!なのに、博士は…」

市長:「PPGを、撃ち殺そうとしたんだな?」

 完全に自分の 正当性を打ち砕かれ、顔色が一気に蒼ざめる博士。それでも、何とかこの状況を回避しようと、もつれた調子で言い訳を語る。

博士:「…ち違う!バルド、私は…」

バルド:「違うんだったら、どうしてお姉ちゃんを 撃ったの!?正直に答えてよ!!!!!私が生まれたから…お姉ちゃん達が要らなくなったから…だから撃ったんでしょ!!!!!」

 それでもバルドをなだめようと、博士が決死の懐柔を試みる。

博士:「聞いてくれ、私はオマエを!…」

バルド:博士、なんか…大嫌い!!!!!!!!!!!!!!!!!

 絶叫と共に、 病室を飛び出すバルド。その後ろ姿をべラムが追っていく。
 衝撃的な棄て台詞をぶつけられ、頭の中まで真っ白になった博士と、怖いまでに冷静な市長が病室に取り残され、その空気は不気味なまでに静寂に包まれていた。
 そこに、市長の追い討ちの一言が飛ぶ。

市長:「…終わりじゃな。

 もちろん、完全に思考が停止した博士に、その声は届いてはいない。
 凍りついた博士をそのままにし、病室を出た市長に、秘書べラムがひどく慌てた様子で駆け寄る。

ミス・ベラム:「…大変です市長! バルドが…見当たらないんです!何処にも…」

市長:「何じゃと!?」

 先ほどまで驚く程冷静だった市長の顔が、一瞬にして蒼白となった。


 同時刻。

 タウンズビル郊外のとある山の麓の地下深く、鈍い機械音が唸りを上げるが、その音は地上に住む者には聞こえない。
 ここは地下200メートルに建設された、悪党三人の共有する秘密基地の、大型クローン生成プラントだ。
 そして、生成装置に接続された容器の中に、 PPGはいた。
 ただし、その意識は深い眠りにつき、重い昏睡状態のまま、特殊な液体の中に漂った状態でいた。
 彼女達の収められた容器の向かい側に、別の空の容器が9つ、同じ液体に満たされて騒然と並んでおり、この二組の容器を挟んで、例の三人が立っていた。

モジョジョジョ:「…これで後はスイッチを入れれば、あのガキ共から採取した細胞に、奪ったスーパーパワーが注がれ、完璧なクローンPPGが生成される。そこから先は各自、そいつらを自由に強化改造し、自分の手下にする。…そういう話でしたねぇ?」

 巨大な実験装置の作動過程を 大まかに説明し、モジョは「彼」に話を振った。

「彼」:「…その通り。オリジナル3人のPPGからさらに3組9人のクローンを作り、それを私達三人で山分けし、各自の持てる力で強化改造する。…もちろん、クローンにばらつきはないわよねェ、おサルさん?」

モジョジョジョ:「俺様の技術は完璧だ!…それに品質も全て保証済みだ!何なら…俺様は一番最後に残ったクローンを頂いてもいいんですがねぇ?…何だって「残り物には福がある」…って事もあるし」

プリンセス: …バッカじゃない?とっとと始めなさいよ!」

モジョジョジョ:「…オムツも取れないガキには高尚すぎる会話だったかな?お嬢チャン?」

プリンセス:「何ですって!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ほったらかしにすれば必ずこの二人はこういう口喧嘩を始めてしまう。しかし「彼」は大して慌てる素振りも見せず、間に割って入る。

「彼」:「〜もういい加減にしなさい!モジョ、それじゃスイッチ入れて頂戴。」

モジョジョジョ: 了解!

 モジョが手元のスタートボタンを押すと、重い機械音と共にプラント自体が細かく振動し、始動する。やがて、二組の容器の中が、空気の泡で満たされ始める。
 そして、ブロッサムの容器がピンク色の、バブルスが水色の、バターカップが若葉色の光に包まれる。
 向かい側の9つの容器も、それに応じるかの様に同じ輝きで光り始める。5分程時間が経つと、9つの容器に小さな、人影らしいものが光の中で浮かび始める。
 その影が輪郭をはっきりと浮かび上がらせた事を見計らって、モジョが別のボタンを押した。すると、9つの影に向かって稲妻のような エネルギー波が放射され、装置の周囲は騒然となった。
 しかし「彼」はそんな事等お構いなしに、この光景を不敵な笑みを浮かべ見守っていた。

モジョジョジョ:「さあ生まれ出でよ!俺様の最高傑作!!!!!

 モジョの この絶叫と共に、鋭く重い爆発音が周囲を包む。
煙が薄れるにつれ、9つの容器の中の様子が現われる。

 そこには、まぎれもなく、三組のPPGが収まっていた。もちろん、向かい側のオリジナルと同じく、今だ目覚める様子はない。

「彼」: 〜さ〜いこォォォォ!!!

モジョジョジョ:…ゥハハハハハハハハハハハハ!!!!…さあ、好きな奴を選べ!」

 咄嗟に真中の組を指差し、プリンセスが強い口調で主張した。

プリンセス: 「アタシはこれ!!!!!…今更唾つけたってアタシのはこれだからね!!!」

 しかし「彼」は余裕たっぷりの様子で左端の組を指差す。

「彼」:「…じゃあアタシはこれかしら?」

モジョジョジョ:「…では俺様はこれを頂く!」

 意外とあっさりと分配は終わり、「彼」が他の二人に念を押す。

「彼」:「…それじゃ、後は各自の責任で、この子達におめかししてあげるのよ…分ったわね?」

 そこに、プリンセスが異議を申し立てた。

プリンセス: 「…ちょっとお!アタシはどうしたらいいのよ!アンタ達は自分で何とか出来るからいいでしょうけど、アタシはプリンセスなのよ!」

 そこに、モジョが返答する。

モジョジョジョ:「あのなぁ、オマエには 「金」があるだろうが?金の力で優秀な人材と設備を揃えておめかししてやればいいじゃねえか?少しは頭を使え?」

 プリンセスを少し小馬鹿にしたような答えだったが、逆に彼女は不敵な笑みを浮かべて、この言葉を語った。

プリンセス:感謝するわ、おサルさん…」

 いかにも、モジョよりも凄い改造を施す自信があるような、傲慢な笑みであった。

モジョジョジョ:「…では、各自選んだクローンを搬送するぞ。トレーラーを用意しろ。」

 程なく、タウンズビル郊外の 山道に、三つの方角に分かれて走り去る3台のトレーラーが、闇夜に消えていった。

 …それから数日後、全世界を震撼させる謎の電波ジャックが、全ての国の放送局を襲った。


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