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その日、全世界が衝撃的ニュースに震撼した。
タウンズビルのある日の朝、全ての市民の目が、朝のニュースに釘付けとなった。
それは、いつもの朝のニュース番組の最中、突然やって来た。あるサラリーマン一家の朝の家庭風景。
一家の主は出勤の身支度を終えて テーブルに向かい、妻は朝食の準備に忙殺され、子供達はそれぞれ、眠い目をこすったりはしゃいだりしながら、テーブルに並べられる料理を今や遅しと待っていた。
そんな平凡な朝の光景のバックに流れるBGMは、流しっぱなしのテレビから流れるニュースの音声だ。昨日に起こった事件や、 政府の行政、経済情報等がごく当たり前の様に垂れ流される。
妻や子供達はもちろん、一家の主も新聞の一面に眼を通す余り、音声は耳から耳へ空しく通りぬけていった。そんな平凡な朝の風景に、それは突然やって来た。
…ザザザザザザザザ ザザザザザザザ…
テレビ画面が大きく乱れ、砂嵐のような荒れた画面になったと思った直後、ブラウン管に映し出されたのは、誰もが知っている人物の姿だった。
誰もが恐怖し、嫌悪し、恐れおののくその姿に、全ての視聴者の目が集中した。そして、その人物は、 第一声を発した。
謎の人物:「みなさ〜ん、おはようございま〜〜〜〜〜〜す。今日は、タウンズビルの皆さんにとお〜〜っってもステキな御知らせがありま〜す!」
画面一杯に気味の悪い笑顔で挨拶を交わしたのは 「彼」だった。
「彼」:「…何故って?それは、これを見たら分るワよね〜?も〜じょ〜?」
「彼」の姿が画面の外に消え、代わりに映し出されたのは、大きな硝子ケースが組み込まれた、巨大な機械だった。そして、そのケースの傍らに、いかにも 憎憎しげな笑いを浮かべたモジョジョジョがカメラ目線をキメ、斜に構えて立っていた。
モジョジョジョ:「愚かなタウンズビルの住人共よ、よ〜く聞け!!…これを見ろ!!」
そして、ケースの中身に画面の焦点が合わされる。
そこに映し出されたのは、何かの保存液につけられ、眠っているPPGの姿だった!ケースの奥は暗くて細かい様子は覗い知れないが、3人共心なしか憔悴して、昏睡している様にも見えた。
そのようなPPGの哀れな姿を横目に、モジョは得意げに説明を始める。モジョジョジョ:「…断っておくが、これは決して偽モノではない!正真正銘のPPGだ!これが何を意味するか…もう分ってるハズだ。…ガキ共でもな!」
「彼」:「…あの子達は今、私達が捕まえちゃったのよ。 …だから、これからアンタ達がどんなに声を枯らしてPPGを呼んでも、やって来ないの。…分った?…手前等はもう自分一人じゃ身も守れない惨めな下僕なんだよ!!!!!!!」
女々しい声色から一転、ドスを 効かせた男の声色で、「彼」がテレビの向こうの視聴者に向かって、強烈な罵倒を発する。
それに続いて、小さな女の子の姿が映し出される。
突然、スポットライトが集中し、花吹雪が舞い、ファンファーレが鳴り、映し出された少女の雰囲気を飾り立てる。
映し出された少女はプリンセス だった。
彼女は豪華な玉座に優雅に座り、自分以外を見下すいつもの態度で話し始めた。プリンセス:「…ここまで見せたら、後は分かっているワよね。このおサルさんと、「彼」と、私…プリンセスに 跪き、服従し、永遠の忠誠を誓いなさい。…断っておくけど、素直になった方が、身の為よ。」
優雅に構えるプリンセスの後方に、あのPPGを収めたケースが画面に見えた。
ブラウン管を前にした全ての視聴者の 頭の中が、一瞬、真っ白になった。
一体、何があったのか、今一つ理解出来ない者もいた。ただ、この凶悪な悪党三人が、何かよくない事をおっぱじめようとしている事実だけは、それを観ている全ての視聴者は理解していた。
そして、さらに「彼」とモジョの台詞が、交互に流れる。「彼」:「お嬢チャンの言う通りにしなさい、みなさ〜ん…だって、アタシ達の言ってる事は、本当の事だもの。疑ってるなら市長サンとこ行って確かめてごらんなさい?PPGは今、行方不明だって、証明してくれるワよ〜。」
モジョジョジョ:「そして、もはやPPGは御前達ゲス共の、正義の味方ではない!御前達の味方、PPGは、死んだ!!!!」
画面がモジョを一杯に映し出し、彼の両脇に、突然見慣れない人物の陰が 現われた。
それは、PPGだった。
しかし、彼女達の身体は強固な武器と装甲に包まれ、タウンズビルの誰もが知っているPPGとは完全に異なる、何か厳しい、恐ろしい雰囲気を漂わせていた。続いて、プリンセスの玉座の両脇から、影のようなものが吹き出すように湧き出し、次第に 人の形を成し、細かい部分が露わになる。
それは、PPGだった。
しかし、彼女達は頭以外の全身を黒いウェットスーツのようなもので包み、目にはバイザーのようなものを付けている。人間臭さは微塵もなく、その雰囲気は自分の意思のない、ロボット人間の様でもあった。最後に、 身体を横たえたまま空中に優雅に浮かぶ「彼」の前の床に、鋭い亀裂が走る。
そして、床の厚いコンクリートを突き破り、三人の人影が飛び出し、「彼」の前に立つ。それは、PPGだった。
しかし、その視線は獲物を狙う獰猛な肉食獣にも似て鋭く、顔の周りを角か牙のような突起が飾り、 触れるもの全てを切りつけるような、強烈な敵意と憎悪が身体を覆っている。モジョジョジョ:「これが俺様の忠実な部下にして最高傑作、サイバーパフガールズだ!」
モジョが全身兵器に包まれたPPGを指差し叫んだ。
続いて、プリンセスが全身黒装束のPPGを指差し叫ぶ。プリンセス:「これがアタシの最高の召使にして最強のボディーガード、 シャドーパフガールズ!!」
そして最後に「彼」が全身凶器のPPGを指差し叫んだ。
「彼」:「…そしてこれがアタシのお気に入りの下部にして最凶最悪の使者… ダークパフガールズ!!!!!!」
この3組9人の、異形のPPGを目の当たりにし、視聴者はやっと理解した。
もはや、自分達の味方たるPPGは、この世にはいない。
そして、PPGは自分達の恐るべき敵となった、と!ある者は唖然として言葉を失い、 ある者は恐怖の余り絶叫した。そしてある者は失神し、ある者は自分を見失い身を震わせ右往左往するばかりであった。
混乱は一般家庭だけではなかった。
警察でも、消防署でも、オフィス街でも…そしてポーキーオークス幼稚園でも、物凄い絶望の悲鳴が上がった。
泣き喚き、すっかり 平静さを失った園児を何とか宥めようと、キーン先生も必死に勤めた。しかし…当人も、実際は辛うじて冷静を装っているのがやっとだった。
何とか園児達の騒ぎを静めて、キーン先生は電話をかけていた。事態の詳細を確かめるべく、市役所に問い合わせの電話をかけていたのだ。しかし…電話は一向に 繋がろうとしなかった。
さすがのキーン先生も冷静さを失い、受話器を電話機に叩きつけた。キーン先生:「…一体、どうなっているの!!!???」
その頃、タウンズビル市役所に、ニュースを見た視聴者の問い合わせの電話が殺到していた。
余りの殺到振りに回線はパンク状態になり、ネット上でもサーバが全てダウンする程のパニックだった。
対応する所員も頭の中がまとまらないまま電話に対応し、混乱に輪をかけていた。
もちろん、ヒラの所員は当然として、市長や秘書べラムすらも余りにも多い問い合わせの対応に追われ、疲労困憊していた。市長:「〜ワシ等もPPGの事は心配して探している最中だが…第一あの悪党共が、テレビに映っとったPPGが本物だとしても、すぐに会わせてはくれんじゃろう し…どうすればいいんじゃ!??」
いい加減、対応にウンザリした市長が周囲に当り散らす。それを、秘書べラムが嗜める。
ミス・べラム:「…正直、私もどうしたらいいか、分かりません。しかし、私達がまず行うべき 事は、彼女達の消息に関する情報を…求めるべきだと考えます。」
市長:「消息??」
ミス・べラム:「これだけ市民が関心を寄せているのなら、何か小さな情報でも、市民の誰かが彼女達の手がかりを見つけているかもしれないのでは?」
市長:「…なるほど…一理ある意見じゃナ?」
市長が顔を上げ、遠い視線で答える。そして、さらに言葉が続く。
市長:「…しかしじゃなミス・べラム?」
ミス・べラム:「市長…?」
市長:「…その前にこの 電話の束を何とかして呉れ〜!!!!!!!!」
そう市長が絶叫する声よりもけたたましく、電話の呼び鈴が唸りをあげていた。
そして、市長のオフィスの傍らにあるテレビの画面では、まだ悪党三人の電波ジャックが続いていた。
そのブラウン管の中で、 「彼」が画面の向こう側へ向かって、何かをよびかけていた。「彼」:「…それから、今からでもアタシ達の手下になりたいと思ってる利口な悪党のみなさ〜ん、今がチャンスよ〜〜! …今から24時間以内にで〜っかいワルさをしでかした見込みのある悪者に…ボーナスプレゼントを用意してるから。先着5名様に、腹の底からビックリしちゃう 凄〜いプレゼントが待ってるから…こぞって参加してね〜!」
タウンズビル全体が混乱に陥った今、「彼」の声に耳を傾ける善人は皆無であった。
善なる全ての市民が困惑したのだ。
一方、寂れた路地裏で、光届かぬ闇の世界で、そして刑務所で、おぞましい歓声の雄叫びが 上がっていた。悪党3人の電波ジャックの様子は、もちろん病院の中の、博士がいる病室のテレビにも映し出されていた。
しかし、バルドが行方不明となり抜け殻となった博士の耳に、その声は届いていなかった。
アメリカはフロリダ州、ガルフブリーズ。
閑静な住宅地の多いベッドタウンのこの地は、一方である時期、UFOの目撃事件の多い、一部の人間達にとってマニアックな土地でもあった。
しかし、20世紀半ばにこの地に定住し、地元の新聞社で敏腕をふるうアダム・ノイマンにとって、そんな事は 単なる雑学の一つに過ぎなかった。現在、彼の頭の中は今、全米中を震撼させている、ある事件の顛末とその詳細の記事を、新聞記事として添削する作業でいっぱいであった。
今朝のとあるニュース番組の最中、世界規模の電波ジャック騒動が起こり、その中でタウンズビルの名立たる悪党三人、モジョジョジョ、 プリンセス、そして「彼」が、PPGを拉致し、世界征服宣言を行ったのだ。現時点で保護者のユートニウム博士は謎の負傷で現在入院中であり、PPG三人のいずれとも消息は完全に途絶えたままである。市民の誰一人三人の消息に繋がる手がかりを知る人物は皆無であり、連邦捜査局も捜査員を全国規模で大量に動員し 捜査に当たっている。一方、中央情報局は悪党三人による重要施設への破壊工作を警戒し、アメリカ3軍全てを全国規模で展開させ、警戒にあたっていた。
そのニュースはこの比較的喉かな田舎町にも、すでに一報が新聞社にもたらされており、記者のアダムも現在、続々届けられる情報の処理に奔走している最中で あった。
そして、キーボードの上で指先が踊るパソコンの画面には、今さっき張り付けたばかりの見出しがデカデカと踊っていた。『PPG、タウンズビルから突然の失踪!?』
そう言えば…うちの居候のあの坊主も、PPGの大ファンだったな。そんな事が彼の脳裏を一瞬、過る。
そして、海の向こうの極東の国に留学中の愛娘の事も、同時に思い出していた。アダム:「…キャシーの奴も、落ち込まなければいいんだが…」
男の口から、愛娘の名前が漏れる。
キーボードを叩く指がふと、止まった矢先、モニターの脇の電話が鳴った。アダム:「はい…おう、何か用かマサトシ?」
別の編集スタジオからの呼び出しに応じて、 取った受話器から聞こえてきたのは、その居候の少年の声だった。
マサトシ:「…お仕事中にすみません…どうしても聞きたい事があって…」
アダム:「調度よかったよ。今記事をまとめていた所だったんだ。…PPGの事だろう?」
マサトシ: 「…は、はい!」
用件を聞くつもりが逆に確かめられ、少しマサトシの声が上ずった。
アダム:「気持ちは分かるが、あまり慌てないほうがいいだろう。全米の警察機構だって伊達じゃないし、表沙汰にはならないだろうが、すぐに救出活動も始まるだろうし…」
マサトシ:「…スミマセン。」
アダム:「…ま、世間じゃみんなPPGの失踪の話題で持ちきりだから、やきもきするのも無理ないが…分かってると思うが、余り他の奴には話すなよ。これから話す事は。」
マサトシ:「はい!」
電話をかける度に必ず釘を刺されるが、 マサトシ本人もその事をよく分かっていた。
居候先のアダムの仕事先が報道関係であるだけに、彼も勤務先に電話をかける度に、普段以上の緊張に襲われるのだった。そして電話を通しての会話は3分以上続き、受話器をもどしたアダムが、傍らのタバコに手を伸ばし、煙をふかせて一息付く。
そして一言。アダム:「…とんでもない事にならなきゃいいんだがな…」
一方、アダムの勤務先の新聞社から少し外れた住宅街。
見晴らしのいい小高い丘の一角に、2階建ての一軒家があった。
ここに住まうノイマン家の家庭構成は少し変わっており、家の主たるノイマン夫妻の他に、彼の 親戚であるマセール夫妻も同居していた。
新聞社に勤務するアダム・ノイマンの従兄弟にあたるロスコー・マセールは大手電気製品メーカーの技術者だが、自宅の新築中につき、ノイマン家の2階を間借りして住んでいるのだ。
そして、その2階の一角に、もう一人の居候が一室を借りて住んでいた。
クリーム色の壁紙に包まれ、整理整頓された部屋の真中を大き目の机が陣取り、その机の上に置かれたパソコンは、それをあやつる少年の前で、せわしなく細かい音を奏でていた。
部屋の周りはパステルピンク調のPPGのグッズが飾られており、クリーム色の部屋の一角を染め上げていた。PPGの病的マニア として悪名高いレニー・バクスターよりも種類は少ないが、部屋のあちこちにセンスよく飾られたぬいぐるみや玩具は、明かに少年のお気に入りだった。数年前、彼がこの地に引っ越してくる前に、この家の主の娘からPPGを教わって以来、彼はアメリカに留学する事を熱望していたが、もちろんその理由はPPGだった。 普通、スーパーヒーローと言えば壮年の男女かハイティーンを想像するものだが、彼が留学したこの国には、全世界中最も幼くて過激でエキサイティングなヒーローが日夜、善良な市民の平和を守るために活躍しているのだ。
一目でも会いたいとの一念で留学したまではよかったが、彼にPPGを教えてくれたこの家の娘が 代わりに日本に留学したのは、彼にとって少なからず残念だった。
引きこもり気味で、学校でも余り周囲に打ち解けなかった彼が、外国に数人もの友人を作る事が出来たのは、その娘の御陰でもあったからなのだ。
以来、少年はPPGと同じ位、彼女に特別な好意を持っていた。一方、いかにもアメリカ人らしい 彼女の方は熱烈に彼に好意を持っていた。熱狂的な親日家という事もあったのだろうが、どういう訳でこうまで一方的に好かれたのかを、少年も理解出来なかった。彼女の父アダムの話によると、彼女は地元の学校にも友人が多く、人気もあったらしい。
その沢山の地元の友人達をさしおいて、何故、自分なのか?少年がパソコンを立ち上げてネットで友人達と会話しようとする時、必ずこの疑問が沸きあがるものだが、今回は少し事情が違っていた。
彼がモニターに向かってキーを叩いていた時、日は頭上に上り、典型的な昼下がりだった。
最近は不定期になった外国の友人との会話をする為、少年はインターネットによる、 一種のテレビ電話の装置を使って接続していたが、その装置も、外国の友人の手によるものだった。だが今回、彼が話したい事は先にタウンズビルで起こった、PPG失踪の事件の話題だった。自分が知っている情報も話したいし、他の国の事情も知りたかったのだ。
少年が向かうキーボードの傍らには、彼が先に電話で聞いた何かの内容をメモした紙切れが置かれており、彼は右手で紙切れを、左手でモニターの脇にかけてあった インカムを取り出した。
インカムを頭に装着し、少年はモニターに意識を集中させ、巧みにキーを操る。
このコンパクトなサイズの機械は、外国に住む少年の友人がインターネット上でより快適に会話をする為に、独自に開発したもので、もちろん市販などしていない。
少年がインカムを装着してキーボードを操作 すると、ほどなく画面が切り替わり、スクリーンがテレビ電話のように、胸から上の人間の姿を映し出す。
画面を確かめると、少年は眼鏡のふちをつまんで眼鏡をかけ直し、画面に映った人物に向かい、話し始めた。少年:「大変な事になったよ、ジーン!」
ジーン:「ああ…俺も今詳しい情報を検索してる最中だ。よりによって、あいつらがPPGを拘束するとはな。…タウンズビルの様子は今、どうなってる? マサトシ?」
マサトシ:「さっきおじさんから電話で聞いたけど…タウンズビルの警察もまだPPGの消息は掴んでいないし、なによりあの電波ジャックのせいで、犯罪があちこちで起こっている。このままじゃ…」
マサトシと呼ばれた、眼鏡をかけた東洋人の少年は インカムを通して、画面の向こうの、髪を赤く染めた中学生らしき少年と会話していた。
そして、画面の向こうのジーンと呼ばれた少年が会話の続きをしようとした時、マサトシのパソコン画面に、別のウィンドウが開く。
どうやら別の人物のアクセスらしい。別の人物:「…世界中が 犯罪だらけで、オチオチ気楽にポテトも食えないよ、全く!」
アクセス開始早々、少し的外れなぼやきをこぼした人物は、固太りのブロンドの髪の少年だった。
ジーン:「…こんな時にもマイペースだな、ミハエル?」
ミハエル:「本当はこっちでも…そんな暢気な事言ってられないんだけど。ロシアのマスコミじゃ余り深刻に考えていないし、第一ろくに情報も入ってないし、困ったモンだぜ。」
マサトシ:「…でも、インターネットじゃどこも大騒ぎだよ。そりゃあ無責任な文句も多いけど、 みんな心配してるよ。」
会話の輪が三人に増えて、会話がひと段落した所で、タイミングよく別の参加者が現われた。
発信元はフランスからだ。
そして画面上に、一人の少女の姿が映し出される。ジーン:「いつもながらグッド タイミングだな、マーシュ。」
マーシュ:「こっちのニュースだと、EU各国も電波ジャックの発信源を特定する為に、各国で情報機関がそれぞれ諜報活動を始めたみたいだけど…相手が「彼」じゃ、何て言うか…」
マサトシ:「うん… それまで悪党三人が手を組むなんて、余り考えられなかったけど…今度は、本当に心配だなあ…」
会話に参加した皆が言葉を失ったその直後、又別の参加者が現われた。
今度の発信元は、香港だった。別の参加者:「…でも、アメリカじゃローカル ヒーローがまだ沢山いるだろ?そいつらだって集まれば、いくらあの悪党三人だって、なあ!」
なかなかワイルドな風貌の、髪を後ろに束ねた東洋人の少年が言った。
ミハエル:「でも、三人がどこにいるのか、まだ世界中で探してる最中 だろ?そりゃあPPGと一緒にいるとは思うけど…」
マーシュ:「あ…貴方の所の様子、どうなってる?ウォン?」
ウォン:「どうって…共産中国は表向き、自由主義国家とは協調姿勢だけど、こっちは対岸の火事 を決めこんでいい気なもんだぜ!おかげでこっちは大迷惑だ!全く…」
ウォンと呼ばれた少年が、頭を掻きながら愚痴をこぼす。ジーン:「…しかしだ、現実はこういった混乱を利用して火事場泥棒とか、商社の利権争い とか、宗教対立とか、勝手な大人の事情で、もっと収集のつかない事態になる事も考えられる。」
マサトシ:「その…そういう欲深い人達が「彼」やモジョを、自分達の為に 利用するかもしれないって事?」
ミハエル:「考えられない事でも、ないな!」
マーシュ:「そうなったら…私達、どうしたらいいの?私達は、何も出来ないの?…」
開いたウィンドウの画面の、マーシュの表情が重暗くなる。 今にも泣き出しそうな雰囲気ともとれる。
その時、乱入者:「そんな奴等、俺の蹴り一発で、イチコロだぜ!」
威勢のいい声と共に、新しいウィンドウが開き、画面一杯に乱入者の顔が映し出される。
その後に別の新しいウィンドウが開く。別の乱入者:「ちょっとシム!!…せっかくみんなで大事な事話し合ってるのに、バカな戯言言ってるんじゃないの!」
シム:「うるせぇマリーナ!!!!!だったら俺達で悪党共やっつけて 、PPGを助ければいいじゃん!簡単な話じゃないかよ!」
このシムと呼ばれる乱入者の、いつもの調子と思われる発言に、大半の参加者が頭を垂れた。もちろん、呆れた調子で。
ところが、そんなシムの言葉を聞いて、マサトシはある事を思い出していた。
キーボードを操る手を止め、 マサトシは顎に手を置き、ある過去の記憶を思い出していた。
彼が考え事に集中している最中も、シムと、マリーナと呼ばれる少女の口喧嘩はなお続いていた。マリーナ:「第一ねえ、一般市民のあたし達が、どうやって悪党共と戦うのよ? スーパーパワーも使えないのに!あんたみたいな頭を使わない格闘マニアにスーパーパワーを使いこなす才能があるワケないでしょ!!!!!」
シム:「…ま、まあなぁ…」
シムが言い返す言葉を失い、視線があちこちをさ迷う。そこに、 マサトシの言葉が割って入る。
マサトシ:「…ねえジーン…少し前に話してくれた事、覚えてる?」
ジーン:「何が?」
マサトシ:「ほら、もし僕達がケミカルXを調合する事が出来たなら、…僕達でも、 PPGを創る事が、出来るかもしれないかな…って?」
その言葉に全ての参加者が、言葉を失った。
余りにも突飛な発想だった。マーシュ:「…あ、あのね、マサトシ…気持ちは分かるけど…」
参加者の中で最年長のマーシュも、その場を何とか取り繕おうと、慎重に マサトシを宥めようとした。
その時、少し黙り込んだジーンが、口を開いた。ジーン:「…いや、もしかしたら…」
マーシュ:「え…???」
今度はジーンを除く全員が、彼の言葉に仰天した。
ジーン:「…考えてもみろよ。RRBなんかその場のありあわせの成分で誕生したんだ。ましてや材料の三つは、俺達子供の小遣いでも揃えられる物だ。ケミカルXの成分さえ…後はPPGが誕生した際の記録が分かれば、 俺達でも創る事は決して、不可能じゃない!」
ミハエル:「それじゃあ!?」
ウォン:「…そうだ!奴らがPPGのクローンを作って手下にしたのなら、俺達も自分のPPGを作って対抗しようぜ!」
マリーナ: 「…そんな事、本当に出来るの?」
シム:「すげー!だったら今すぐ…その、ケミカルXの成分とやら、調べようぜ!」
調子に乗ったシムが身を乗り出して言った。
マサトシ:「…もし記録が残っているなら…ユートニウム博士の 研究所だけど、…簡単に教えてくれそうになさそうだし…」
シム:「だったらハッキングしちまえよ、マサトシ!」
ウォン:「…お前なぁ…」
縦横に意見が飛び交うモニター画面に、遅れてきた参加者のウィンドウが開く。
発信元は、日本からだった。
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