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ナレーター: The city of townsbill…この町ではいつ、どんな所でも活気に溢れた所である。オフィス街 でも…商店街でも…学校でも…市庁舎の中でも…郊外の住宅街でも…そしてさらに、この町はいつ、どんな 所でも、必ず事件が起きる町でもある!そして今日も今日とて、どっかで見たような怪獣が…また暴れてる! どっかで見たような悪党が暴れてる!どっかで似たような事故が起きている!どっかで見たようなゴロツキ が…(以下略)。
空。
どこまでも青い空。
今日もタウンズビルは快晴。
遥か成層圏に絵筆で描いたような 白い一筋の雲が、青いキャンバスに見事なまでに美しいアクセントを加えていた。
そんな空の下、 タウンズビルの日常は今日も、何の変哲もなく時を刻んでいた。
いつものオフィス街。いつもの工事現場。 いつものキャンパス。いつもの日常。いつもの人の流れ。
そして、いつもの非日常。
それは、 いつもの光景である。
見慣れた都会の背景をバックに、見慣れた悪党が、いつもの様にタウンズビルの 法と秩序を脅かし、自らの存在感を万民に知らしめようと、最新の科学技術を駆使した新兵器を持参し、目標を定めた。
その大都会のド真中で、頭部が異様に肥大した猿らしい人影が、手製の武器を無防備の市民や建物に向ける。 その武器が閃光を放つ度に、建物が爆発四散し、人々が阿鼻叫喚の表情で逃げ惑い、散ってゆく。
その猿らしい人影…モジョジョジョは、いつもの様に悪党としての職務を全うするべく、たいして目標を 絞るわけでもなく、無差別に自慢の秘密兵器を炸裂させていた。
いつもの光景である。
そしてその邪悪な影に向かって突進してゆく三つの色の影。
その色鮮やかな 三つの影が現れるや、それまで必死の表情で逃げ惑っていた人々が歓喜の声を上げる。観衆:「Go,Girls,Go!」
そして哀れな悪党は三つの影によってボコボコの袋叩きの目に遭った挙句、あっけなくムショ送りとなった。
いつもの光景である。
それから間もなく、そこからさほど遠くない別のオフィス街に、ビルよりなお 大きい巨大な怪獣が大破壊を繰り広げていた。
何故暴れているのか。何処からやって来たのか。その 光景を見守る野次馬達にとって、そんな疑問など些細な事でしかなかった。
彼等の関心は、まもなく やって来た三つの影に集中していたのだ。
そしてここでも、さほど変わり映えしない大きな歓声が 上がった。観衆:「Go,Girls,Go!Go,Girls,Go!Go,Girls,Go!」
そしてここでも、その巨大な怪獣は、それと対比して豆粒ほどの小さな三つの影にあっという間に叩きのめ され、水平線の彼方に放り投げられた。
いつもの光景である。
そして些細な個所は異なるものの、まるであたかも当然の如く繰り返される事件の数々。
そして事件が 勃発する度に、ユートニウム博士の自宅の一室に置かれた電話がけたたましく鳴り、三つの軌跡が事件現場 へと伸びてゆく…そして何事も無かった様に、三人のスーパーヒーローが部屋に戻ってくる。
そしてその夜、 三人三様の武勇談が唯一の観客たる博士の前で繰り広げられる。
赤いリボンに長い髪のブロッサムは几帳面に折り目正しく、自分の役割を強調しながら朗々と語り、
黒髪でショートカットのバターカップは身振り手振りのオーバーアクションを交えつつ、戦いの激しさを 誇張しながら熱く解説していた。
そして金髪でおさげ髪のバブルスは舌っ足らずの口調で一生懸命、横にずれた 話を可愛らしく話していた。
三人三様に突っ込み突っ込まれるそれぞれの武勇談に博士は目を細め、満足そうに話に聞き入っていた。
まるで決められた役割を実行しているかの様に、おてんばなバターカップがバブルスの幼稚な性格をからかい、 バブルスがそれに反抗し、二人の他愛のない喧嘩をブロッサムが仲裁し、博士が三人を諭す。そして最後は何事もなかったが如く 三人は仲直りをし、就寝時間には三人とも一つのベッドで健やかな寝息を立てて眠るのだ。
それはあたかも、本当の家族の一家団欒の一風景のように、家の外からは見えていたのかもしれない位、 暖かい光景だった。
それも又、いつもの光景であった。
それを見つめる見えない視線があった。
この大都市で繰り返される事件や犯罪、事故。そしてそれを 瞬く間に解決してゆく小さなスーパーヒーロー達。
その視線は、その三人のヒーロー達に注がれていた。
その視線は、明らかな憎悪、嫌悪、嫉妬といった負の感情に満ち満ちていた。
その視線の持ち主は、 薄暗い部屋の一角に置かれたソファーに優雅に身を横たえ、リラックスした状態で、同じく部屋の一角に 置かれたテレビの映像に見入っていた。
その映像は、その視線の持ち主の秘密の魔力で、観たい物の 映像をブラウン管に映し出していたのであった。
目の前の画面に、三人と博士の仲睦まじい光景が映し 出される。
そして、それに見入る瞳の中には、激しくもドス黒い憎しみの炎が燃え上がっていた。
謎の人物: 「…んま〜いつもいつも幸せそうな顔して毎度の事だけど本当にムカつくワ!…それにしても揃いも揃ってあの 人達って何してんのかしら…全く役立たずの穀潰し供め!!!」
激怒したその人物の目が鋭く光り輝き、怒号が部屋全体を震わせた。
そして瞬く間に、さっきの怒号と打って変わった声色で 穏やかにつぶやき始めた。謎の人物: 「…怖いのは顔だけで全然強くも何ともないじゃない…こんなんじゃあの憎たらしい小娘達をやっつけるまでには、 アタシしわだらけの年寄りになっちゃうワ〜冗談じゃない!やっぱりこのアタシが出て行かなきゃダメなの かしら?」
いつの間にか、彼は先の怒号の拍子で床に転げ落ちたゴム人形のアヒルに手を伸ばし、無意識なのかそうでないのか アヒルに話しかけていた。あたかも無邪気な子供の様に。
謎の人物: 「…こうなったらもう悪党にも市民権がどーのこーのとか言ってる場合じゃないワね…やっぱり悪党は悪党らしく、クールで ワイルドで残酷でなくっちゃ…もー子供相手の茶番劇にはウンザリよ!止めよ。止め。もう子供向けの悪党なんかやって られないワ!〜んねぇ〜…あの小生意気で邪魔な娘達、この世から綺麗サッパリ抹殺しちゃった方が いいのかしら?ねェ?」
その人物はアヒルに面と向かって無邪気に、且つ不敵に話しかけていた。そして何か邪な企みをを思いついたと 見えるその笑顔は、部屋の薄暗さも相俟ってその表情を不気味に浮かび上がらせていた。
謎の人物: 「キャ〜…抹殺だなんて…アナタって本当にな〜んて悪い子なんでしょ。…そんな悪い子アタシ、だ〜い好き!」
顎鬚を蓄えた口元に似つかわしくない声色で、その人物は狂喜した。
その喜ぶ姿は、見る者の背筋を凍らせ、全身の毛を逆立たせるに足る奇怪さと不気味さを漂わせていた。
その人物こそ、タウンズビル全ての住人を畏怖させ、名だたる悪党からも一目置かれた大悪党である。
人々の心の隙間につけ込み、翻弄し、弄び、恐るべき超能力を使ってタウンズビルを混乱に陥れる大悪党。
彼の存在を語る時、人々はその恐怖の余り、彼の名前を口にする事すら憚ったと言う。
故に、彼を知る全ての人は彼をこう呼んだ。
…「彼」と。
そして、その夜。
深夜のタウンズビル。そのマンション街の一角。
そこに「彼」はいた。
自らの超能力を使い、気配と姿を殺し、「彼」はある人物の部屋を目指して先を進んでいた。
時間は午前3時をもう過ぎているだろうか。もはやこの時刻を過ぎた頃は、よほどの事情がなければ起きている 人間はいないだろう。「彼」が徘徊しているマンションも、そんな住人が住まう場所の一つに違いない。
しばらくして、「彼」はある住人の部屋の玄関の前に脚を止めた。
「彼」が何か呪文のような言葉を呟き始める。しかし、その声は「彼」の頭の中にしか響かず、薄暗い廊下は 不気味な程静かだ。やがて、「彼」の身体が煙のように変化し、玄関のドアをすり抜けてゆく。
すり抜けたドアの向こうは、その住人が就寝しているのであろうか、真っ暗だ。「彼」: 「…さすがにこの時間じゃ起きているワケないわよねェ、あの男でも…」
誰に語るでもなく「彼」が呟く。しかし、その声は人には聞こえない。
先を進むにつれ、「彼」の鼻に何か、 芳しい匂いが漂い始め、彼の神経を逆撫でする。
部屋を徘徊する「彼」の表情が、先を進むに従い眉をひそめる。 そして苦言を吐き始める。しかしその言葉は部屋の住人には聞こえない。
やがて「彼」がその部屋の住人が 眠っているであろう、住人の自室にたどり着く。
その部屋は、住人が独り暮しであろう事を物語るように、 食い散らしたスナックやインスタント食品の容器が散らばり、雑誌や新聞、紙屑が足場を隠し、雑然としていた。 そんなゴミだらけの部屋に陣取ったベッドの上に、その主は眠っていた。
レニー・バクスターである。
重力が働く場所に散らされたゴミの山とは対照的に、部屋の壁と天井、本棚などには、彼が趣味として収集しまくった PPGのフィギュア、ぬいぐるみ、雑誌、ポスター、食器、アパレル関係、等などと、異様な数のPPGグッズが飾られ ており、それらを寝ながらにして一望出来るように、彼の寝台は配置されていた。彼の愛用している寝具も又、PPG 関連であり、ただでさえ尋常でない彼の私生活と容貌を浮き立たせていた。「彼」:「…なんて、醜い男!」
「彼」が思わず鼻をつまみながら、憎まれ口を叩く。
「彼」: 「全く…アタシの壮大で偉大な野望の為でなかったら、こんな気色悪い 男の住まいなんか一生来ないワ…!」
しかし「彼」の声はレニーの耳には聞こえない。夢現の真っ只中なのだろうか、時折満足げなニヤケ顔を浮かべる。
相手の神経を逆撫でするような寝顔に心底ウンザリした「彼」は、本来の目的を思い出して、何かを探し始めた。
壁や棚に飾られた希少価値のカタマリのようなPPGグッズに目も呉れず、「彼」は明らかに部屋の奥底に保管されて いるらしい「何か」を目指しているようだった。「彼」:「こういう人間だったら、必ずいくつかは持っているハズよ…!」
不思議な事に、これだけあからさまに何かを探索しているにも関わらず、レニーは気付くどころか、目を覚ます様子も なかった。恐らく「彼」が特殊な能力を使って、レニーを眠らせている事は間違いないだろう。
押入れの奥を探索していたらしい「彼」が、ようやく目当ての「何か」らしい物を見つけた。
それは、レニーが知り合いの 手を通して手に入れた、日本製と思われる本と人形らしかった。
その本は日本製の子供番組、あるいはアニメーションを 模した「ドウジンシ」と呼ばれる自主出版物で、同じく探し出したその人形も、その本と同様に番組のキャラクターを模したもの らしかった。しかし、製作者がレニーと同じような趣味と嗜好を反映させた結果なのか、とても健全で健康的とは言えないある種の 「いかがわしさ」を漂わせていた。
その人形を押入れから取り出し、傍らに置いた「彼」は本のページを確かめるように、 パラパラとめくり始めた。そしてその内容を再確認した「彼」は、その不健康な、背徳的、反道徳的内容に口元を緩ませた。「彼」:「これだワ…これよコレ!ピッタリよ!アタシが探していたのは…!」
やがて「彼」は同様の内容の本数冊と人形数個を携え、満足げにその部屋を後にした。もちろん、部屋を物色した跡を消す などといったまどろっこしい事はせずに。
「彼」: 「これで材料の一つはそろったワ…あとはあいつの力を借りるだけだゼ! ハァ―――――――――ッハハハハハハハハハハハハ……!!!!!!!!!」
陰惨な笑い声を上げながら、マンションを離れ、虚空に消えていく「彼」。しかし、その高笑いははやり、人間には 聞こえない…。
次の日の朝、自室の真中で独り、何か大騒ぎをしているレニーの姿を、同じマンションの住人達が確認している。
住人たちの話によると、先日の深夜、レニーの自室に泥棒が入り、何か貴重な品々を持ち去ったらしいのだが、何故か 当のレニー本人は警察に通報するのを頑なに拒んでいる様子らしく、対応が二転三転して混乱しているらしかった。 結局この事件は警察沙汰に発展する事はなかったものの、近所の住人達はレニーが何か、いかがわしい物品を所持して いたのではないかと、疑惑の声を上げている。
そこは、真っ暗な空間であった。
真っ暗な空間に、ぽっかりと浮かび上がった明るい空間。
つい数日前、モジョジョジョはPPGによって野望を打ち砕かれ、刑務所に収監されていたはずだった。
そして今夜も、確かに独房の一室で眠りについていた、はずだった。
しかし、ふと奇妙な感覚に目が覚めて、気が付いてみると、彼はここに立っていた。もちろん、身につけてる服は 彼がさっきまで収監されていた刑務所のいかめしい囚人服ではなく、いつもの服装である。
肩まで張ったスーツ、白いグローブとブーツ、独特の模様の入った第二の頭蓋骨とも言うべきヘルメット。モジョジョジョ:「一体これは…ン?」
ようやく暗闇に目が慣れてきて、暗闇の中央に一ヶ所、明るい空間があるのが確認できた。
そこには、赤い絨毯の床に置かれた、三つの優雅な椅子が、それぞれ空間の中央に向けられて置かれており、その内の 一つに、見覚えのある小さな人影が見える。
自分の身に起きた不可解な事態に全身を緊張させつつも、モジョはその明るい空間の方角へと、歩き始めた。
ほどなく空いている椅子の一つに近づいた時、先に座っていた小さな人影の正体が明かりに浮かび上がる。
人影:「…何よ?アンタも来てたの?」
いぶかしくモジョに言葉を投げかけてきた人影はプリンセスだった。
モジョジョジョ:「何だ…お前ももしかして、突然ここに連れてこられて来たのか?」
知った顔の存在を確認して、モジョの緊張が少しだけ和らいだ。それはプリンセスも同様だった。
プリンセス:「そうよ。」
そっけない返事がモジョの耳に返ってくる。
プリンセス:「一体ここは何処なワケ?」
モジョジョジョ:「俺様の知った事か!俺様も気が付いたら突然ここにいたんだ。こっちが聞きたい 位だ!」
御互い、顔見知りである悪党だけあって、へらず口の掛け合いが始まる。それでも、この異様な状況で 冷静さを失いかけていた二人にとって、それは自分で自分自身を鼓舞する意味合いをも含んでいた。
タメ口の 掛け合いがひと段落して、ようやく御互いある程度、平静さを取り戻したようだ。プリンセス:「…あっそ。」
プリンセスもいつもの、人を見下した生意気な態度が 戻っていた。
プリンセス:「処でおサルさん、ミルクティーもって来て。喉乾いた。」
例え初対面の相手であろうと、選民思想のカタマリの彼女にとって、自分以外の他人はただの下僕に 過ぎなかった。それはある程度の差はあれ、モジョにとっても同様である。
モジョジョジョ:「自分で持って来い。」
モジョが切り返す。
プリンセスの眉が一瞬ピクリと動き、眉間にしわが寄り始める。モジョジョジョ:「てめぇいつまで、一人じゃオシメも取れない ガキを気取ってやがんだ?」
さらなる侮辱の言葉が、彼女のヒステリーに火を付ける。火は最初は静かに燻り、やがて突然、 烈火の炎のように彼女の激情を爆発させた。
プリンセス:「もう一度言ってみろ!この脳ミソザル!!」
モジョジョジョ:「何度でも言ってやるとも!自分一人じゃ夜中トイレも行けない クソガキが、俺様に指図するんじゃねえ!」
プリンセス:「お父様に言いつけて、オマエの脳ミソをグチャグチャの ミンチにして、犬のエサにしてやる!」
モジョジョジョ:「やれるモンならやってみろ!!!!」
二人の口喧嘩のテンションが最高潮にさしかかろうとしたその時、
「彼」:「はァ〜い口喧嘩はそこまでヨ!」
二人の間に陽気なかけ声が割って入った。
二人が口喧嘩の真っ最中で気がつかなかったのか、残った空席に何時の間にか「彼」が、余裕の笑み を浮かべて座っていた。その不可解なまでの明るい態度に、モジョもプリンセスもさっきまでの怒りの感情を 忘れ、面食らっていた。「彼」:「アンタ達をここに呼んだのはあたしよ、ア・タ・シ。分かった?」
プリンセス:「「彼」!」
モジョジョジョ:「…一体何の用で我々をこんな場所に…?」
「彼」:「〜もーヤーねぇ決まってるじゃない…アンタ達二人に特別、用があるからに 決まってるでしょ?」
この一言で事態を飲みこんだ二人は、ようやく警戒を解いた。
プリンセス:「…んで、用って何よ?」
口火を先に切ったのはプリンセスだった。
「彼」:「もちろん、悪巧みの相談よ〜。」
「彼」が声色も軽やかに、モジョの肩を叩きながら答える。
「彼」:「〜ねぇアータ達、いつもいつもあの小娘達にボコボコのベコベコの コテンパンにやっつけられて、ちょっとは悔しくなァい?」
その生ぬるい湿気のような屈辱的質問が、モジョの逆鱗に触れた。
モジョジョジョ:「ちょっと所の話じゃな――――――い!!!!!!」
声を荒げるモジョ。
程なく彼の怒声が涙声に変わり、瞼に目に見えて涙が溢れる。モジョジョジョ:「…いつも、いつも、いつもだ…!あの小生意気なPPGのせいで、俺は…俺様は……」
人気を憚らず、肩を震わせて男泣きする彼の脳裏に、走馬灯のように数々の敗北の光景が駆け巡る。
「彼」:「そんなにあの娘達が憎い?」
悔し涙に顔をクシャクシャにしているモジョに、なおも「彼」はニヤニヤしながら問い続ける。
モジョジョジョ:「憎いだと?」
そんな「彼」に向かって、モジョがありったけの憎悪の感情を露わにする。その憤怒の表情は、会話の外で傍観を決め こんでいたプリンセスをも一瞬、畏怖させる程の迫力を放っていた。そして、腹の底から搾り出すようなモジョの返答。
モジョジョジョ:「…当たり前に、決まってる!」 しかし「彼」はそんなモジョの表情を前にしてもなお、何かを期待しているかのような嬉しさを顔面に浮き立たせていた。
モジョジョジョ:「…あいつらさえいなければ…PPGさえ、この世にいなければ…」
その言葉を待っていたのか、「彼」がモジョの耳元にささやく。
「彼」:「…だったら、いなくしてしまえば?」
その言葉に、自分自身でも意外な程素直に、モジョが言葉を返した。
モジョジョジョ:
「そんな事が、出来るのか?」 「彼」:「その為の相談じゃな〜い?」
「彼」が相変わらず、陽気に答える。そんな二人のやり取りに、突然プリンセスが 割って入る。
プリンセス:「ちょっとォ!!何アタシを無視してんのよ!アタシを呼んだってからにはアタシにも 相談事があるって事なんでしょ!」
「彼」:「も〜ちろん、お嬢チャンにもネ。」
空いた残りの手をプリンセスの肩に回し、「彼」が二人を抱き寄せて話しかける。
「彼」:「お嬢チャンだってあの娘達、と〜っても邪魔なハズ、でしょ〜ねぇ?」
プリンセス:「当たり前よ!!!!!!」
彼女の表情も又、苦虫を噛んでいるように屈辱に歪みきっていた。
プリンセス:「アタシはねェ、世界中どんな街に引っ越しても、必ず特別だったのよ!誰もがアタシのことを 羨望と崇敬の念で眺めていたのよ!アタシを無視出来る人間なんてこの世にたった一人だっていない のよ!、だって、アタシはプリンセスよ!!プリンセス!!!!! …なのに…どうして…このタウンズビルじゃあ何でアタシより、あんな娘達が人気があって愛されるの? 不公平よ!この街の連中は絶対間違ってるワ!!おかしいワ!!!! 狂ってる!!!絶対におかしいワ!!!アタシの方があの娘達よりも金持ちだし、生まれも育ちもいいし、 何より可愛いし!!!!ねぇ、アンタもそう思うでしょ!!!???」
堰を切ったように溢れ出た言葉の洪水に、さすがの「彼」もプリンセスをなだめるのに精一杯であった。
「彼」:「〜あ〜あ〜あ〜あ〜分かったから、分かってるから〜モとにかく落ち着きなさいよ、もう!」
予想範囲を若干越えている反応にうろたえながらも、双方の共通の感情を再確認した「彼」は、いよいよ暖め続けていた野望と計画を語り始めた。
もちろん、「彼」がモジョとプリンセスをパートナーとして、彼の計画の参加者に加えたのには、れっきとした理由があった。彼の計画を進めるに あたって、「彼」自身の発案した策略と超能力の他に、モジョの「科学力」とプリンセスの「経済力」がどうしても必要不可欠であったからである。
やがて話しが進むにつれて、モジョとプリンセスの顔に、かつてない自信と野望に満ちた邪悪な笑みが浮かび上がった。モジョジョジョ:「なるほど…そういう事か。…面白い!」
計画の全貌が明らかになるにつれ、モジョの思考が回転を始める。
プリンセス:「退屈しのぎにはなりそうね…いいワ。その話、乗ってあげる。」
あいかわらずの高飛車な態度だが、プリンセスの目も輝きを増し始めていた。
「彼」:「…でもね、再三再四口をすっぱくして念を押すけど、PPGを確実に抹殺するまで、この三人の内誰も御互いを出し抜こう だなんて野暮な考えを実行に移すのは、反則よ。…もしも約束を破ったら、後は…分かってるワね?」
「彼」の目が、両脇の二人を牽制するように光り輝く。
モジョジョジョ:「心配するな!この計画は三人の内誰かが欠けると完遂の保証は出来ない。そうだよなァ、お嬢チャン?」
プリンセス:「バカにしないでよ。その事は後で、あのPPGをこの世から抹殺してから考える事にしてるから!」
互いの言葉を確かめてから、おのおのが何時の間にか用意されていた、飲み物を満たした高級なグラスに手を伸ばし、高々と掲げる。
「彼」:「…じゃあ前祝に、祝杯をあげるワよ。PPGの最期を願って…」
三人:「乾杯!!」
「彼」の乾杯の音頭に合わせて、三人は一斉にグラスの中身を飲み干し、グラスを床に叩きつけた。
心臓を砕くような硝子の弾ける音と供に、三人三様の邪悪な高笑いが、暗闇を木霊する。
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