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開かれたウィンドウに映ったのは、ウェーブがかった金髪の少女の姿だった。その少女が慌てた様子でその場の皆に挨拶を交わした。
とりわけ、マサトシと挨拶する時は、何か熱を込めたような眼差しを投げかける様子が印象的だ。
マサトシもそんな彼女の目を見る事が出来ず、少し照れくさそうに視線を ずらしながら挨拶した。マサトシ:「…こんばんは、キャシー…」
キャシー:「…遅れてごめんなさい!」
ジーン:「今までのやり取りは観てただろうと思うけど…日本の様子はどうだい?」
キャシー:「〜もうアッタマきちゃうワ!いくらアタシみたいな親日家でも、あんなハッキリしない政治家の対応は…ッごめんなさいマサトシ…」
出会い頭、怒り心頭の少女の顔が、申し訳なさそうに表情が沈む。
マサトシ: 「…ううん、僕は大丈夫だよ。…それより、こうなったら僕達だけでも、何か出来ることをしなくちゃ…」
ウォン:「俺達の手でPPGを作るの、やってみる価値はあると思うか?」
ミハエル:「今更融通の利かない、 頭のカタい官僚達に任せた所で、時間の無駄使いだぜ!俺達の手でPPGを助けよう!」
マーシュ:「私も、賛成だわ。」
ウォン:「俺もやるぜ!」
シン:「…でさ、ケミカルXはどーする?」
ジーン:「成分が分かれば精製方法は俺が何とかするけど…」
このジーンという少年は、普通の中学生と違うらしく科学知識において、かなりの才能を持っているらしい。従って、マサトシが発言した「PPGの創造」と言う突飛な発想も冷静に分析して その場で的確な意見を述べていた。科学に関して精通している彼が言う通り、必要な資料が揃わなければ、PPGの創造などただの無謀な戯言で終わってしまう。
皆が黙り込んだ後少し間を置いて、何か思いつめた表情のマサトシが口を開いた。マサトシ:「…僕が何とかしてみるよ。」
マーシュ:「ちょっと!いくら地の理があると言ってもそれは無茶のし過ぎよ!」
さすがに彼の無茶な申し出を、マーシュが止める。
彼女や他の仲間が知る限り、最近のマサトシは自信が付いてきた反面、無茶な行動にも進んでチャレンジする事が多々あったようで、周囲も神経を尖らせて いたのだ。それを観かねたミハエルが助け船を出す。ミハエル:「そういう事なら任せとけよ!ハッキングだったら多少は心得があるぜ、俺なら!」
マサトシ:「でも…」
ウォン:「気持ちは分かるけど、最近の 御前は何から何でもしょいこもうとして無茶し過ぎだゼ!少しは他の奴の才能を信じろよ?」
その言葉に、はっと我に返るマサトシ。
ジーン:「ミハエルのハッキングが成功したなら、後の成分の配合とかはこっちで用意する。それでみんなOKだよな?」
シン:「まあな…期待してるゼ。」
マリーナ:「…何の役にも立とうとしないクセに、少しは彼を見習いなさい!」
マリーナはシンに、マサトシを見習えと言っている様だが、直に顔を合わせていないので、その感覚は今一つシンに 伝わっていなかった。
シン:「誰を?ウォンか?」
マリーナ:「…!!!!」
増長気味のシンを押し込めようとしたマリーナだったが、逆に押し込められてムッとした様子だ。マリーナが ウォンに一方的に惚れている事は皆知っていたが、露骨にからかわれて、彼女もさすがに言葉を失った。
そこに、ウォンの慌てた口調が割って入る。ウォン:「…やべぇっ!こんな時間かよ…じゃあミハエル、がんばれよ!俺はここでおひらきだ。」
マリーナ: 「…待ってよウォン!?せっかく会えたんだから、もう少しお話したって…」
彼女が引き止めるのも聞かず、ウォンはそそくさとウィンドウを閉じてしまった。そこに、シンの止めの一言。
シン:「…思いっきり避けられてるナ…」
マリーナ: 「何よ!あたしとウォンの事ロクに知りもしないクセに!!…アタシも帰る!!!」
思いっきり腹を立てて不機嫌のマリーナが、ふくれっ面と共にさっさとウィンドウを閉じる。
残った参加者の冷たい視線がシンに集中し、さすがに あせったシンも、シン:「…あははははは…そ、そいじゃあ、俺もそろそろ時間だし…又な!」
ぞんざいな別れの挨拶もそこそこに、シンもさっさとウィンドウを閉じてしまった。その光景を傍観していたジーンがため息と共にこの言葉をこぼす。
ジーン: 「…これだモンな…ま、いつもの事だが。まずは吉報待ちだな。」
ミハエル:「…それじゃ、オイラは早速やってみるワ。」
マサトシ:「…がんばってね」
ミハエル:「おう!」
マサトシの気持ちを察して、ミハエルが力強い返事を返し、 ウィンドウが閉じる。
そしてジーンも軽い返事を交わし、ウィンドウを閉じる。マーシュ:「…本当に私達のPPG、出来たら凄いわね?」
マサトシ:「うん…ジーンに話した時は、自分でも半信半疑だったけど、 今なら…いや、今じゃなきゃ駄目だって、思うんだ。」
キャシー:「どうして…?」
マサトシ:「モジョも、プリンセスも、「彼」も、自分達のPPGを作った。…なら、僕達も自分達のPPGで対抗したらって、単純に思っただけだけど、正直、 自身無いんだ。」
キャシー:「でも、それでも何かしなくちゃならないって思った時は、本当はみんなだって心配なはずよ!だから…マサトシももっと自信持っていいの!」
マサトシ:「うん…」
他の二人に気を利かして、マーシュもさりげない挨拶を 交わして、ウィンドウを閉じた。
会話が二人きりになり、キャシーが少しあらたまった調子で、重い口を開いた。
キャシー:「本当だったら、私も一緒にいてあげられたらいいのに…」
マサトシ:「僕は平気だよ。…キャシーの御陰で昔より、沢山 友達がいるし。それに、もう一人じゃ何も出来ないのは、嫌なんだ…」
キャシー:「そんな事ないよ…さっきだって、PPGの事だってマサトシが何か言わなかったら、みんなだってどうしたらいいか分からなかったし…皆も不安なんだと、思うの。みんな、 貴方の事そんな風に思ったりしてないわ。だから…」
互いの言葉が途切れる。
画面の向こうのキャシーは今にも泣き出しそうな雰囲気だったが、それでもモニターの奥から見つめる瞳は、しっかりとマサトシの目を見つめている様でもあった。
親愛の眼差しに励まされて、少し安心した表情のマサトシが、 別の話題を振った。マサトシ:「…ガルフブリーズはまだ、事件の影響はないみたいだから、おじさんも相変わらず飄々としているよ。マセールさんも元気だし…あ、日本の様子はどうだい?」
キャシー:「…うん…みんな親切だし…大丈夫よ。学校も、友達も、みんな、親切 だけど…」
涙目だったキャシーの瞳が、さらに潤む。それを目の当たりにしてうろたえるマサトシ。
何か余計な事を…いや、彼女自身何か重大な悩みを抱えているのでは?
マサトシの脳裏を、さまざまな臆測が飛び交う。そして、彼女の次の言葉を固唾を飲んで待つ。キャシー: 「…でも、やっぱり私、今すぐ貴方に会いたい!」
驚きの余り、椅子からずり落ちそうになるマサトシ。その時、彼の頭の中に、最後に日本でキャシーと出会った時の記憶が、少しだけ蘇った。
半年前、交換留学生としてアメリカへ留学の準備をしているマサトシの所に、先に彼の家の元に、彼と交換で日本に留学するキャシーがやって来た。
それ以前から二人は、手紙を送ってで互いに交流し、最近はインターネットで盛んに話の場を持つようになっていた。やがて世界中に他に六人の友達を得たマサトシは以前にもキャシーに 特別な感謝と敬意の念を持つに至り、それは好意へと変わっていった。
一方の親日家キャシーはそれ以前から、沢山の友人を作っていたが、中でも唯一の日本人のマサトシは彼女の一番のお気に入りで、時々彼を唖然とさせる程の熱烈なラブコールを送ったりと、親交を重ねるにつれて互いを想う気持ちは高まるばかりだった。
もちろん、留学生になる前に彼等は自分の写真を交換したりして、それなりに互いの姿も認識していたが、直に面会したのはその時が初めてだった。
初めてキャシーの姿を目の当たりにした時、マサトシは緊張の余り硬直して身動きすら出来なかった。反対にキャシーは歓喜と共に彼の襟元に抱きつき、まるで本当の姉弟の様に はしゃいだ。
それからマサトシがアメリカへ出発するまでの3日の間、二人は時間の許す限り一緒の時間を過ごした。
たった72時間足らずの間だったが、二人にとってはいろんな想いが凝縮された時間だった。あっという間に3日が過ぎ、マサトシがアメリカに出発する時も、一番頬を濡らして別れを惜しんだのは、実は彼でも 彼の家族でもなく、キャシーだった。
マサトシも本当は泣きそうだったが、彼女が施してくれた愛情と友情を思い出し、その一つ一つを噛み締め、歯を食いしばって劇場に耐えた。
いささか自分でも格好のつけ過ぎと思いつつも、次に再会した時の為に、もっと立派な男になって帰ってくるんだと自分の胸に言い聞かせ、マサトシは 旅立ったのだ。
〜そんな濃厚な記憶が瞬時に蘇った一瞬だった。
ようやくバランスを崩しかけた姿勢を立て直し、マサトシは椅子に座りなおし、勤めて優しい語り口で、この言葉を語った。
マサトシ:「…僕も会いたい…けど、今は取って置くよ、この気持ちは。」
意外な表情で、キャシーが彼の 次の言葉を待つ。
マサトシ:「PPGがいなくなって、思いっきり心配してたけど…みんなも同じ気持ちだったって分かったら、何だか今までの自分の心配が情けなくなっちゃって…頑張らなきゃって今は思うよ。」
彼の言葉に、彼より年上のはずの キャシーの表情は、少し不満げだ。
キャシー:「私には…会いたくないの?」
そういじらしく問い返す彼女を宥めようと、マサトシは勤めて明るく、はっきりした口調で答えた。
マサトシ:「…会いたいよ …とっても!」
キャシー:「…本当?」
それでもなお泣き顔のキャシーの返事に、マサトシは力強く頷いた。傍目に観たらどっちが年上なのか分からない光景だ。
ようやく自分の中で納得したのか、キャシーの表情が明るくなった。マサトシ:「…そう言えば、時間は大丈夫?」
そう思い出した様に言ったマサトシの言葉に、キャシーが慌てた。
キャシー:「そう言えば、夜中だったんだ!」
考えてみれば、二人のいる場所は地球のほぼ反対側であり、フロリダが昼でも、 日本は夜中なのだ。
キャシー:「…あ、あのう…」
それでもキャシーは何か煮え切らない様子だった。その事に気付いたマサトシが、落ち着いておひらきの挨拶を言った。
マサトシ:「じゃ…おやすみなさい、キャシー」
その言葉を聞いて、 少し照れた表情のキャシーが挨拶する。
キャシー:「うん…またね」
はにかみながらも、とても満足した表情のまま、キャシーのウィンドウが閉じる。
ようやく一息付くマサトシ。
しかし彼の頭の中は、これからどうやってPPGを救出しようかという、自分なりの使命感で一杯だった。
自信は なかったが、それよりも強い決心が、彼の胸の中に満ちていた。
2日ばかり経っただろうか、学校から帰ってきたマサトシのPCにメールが2通届いていた。
一通はロシアのミハエル、もう一通はイギリスのジーンからだ。
メールは暗号化されており、ジーンが独自にプログラムした解凍ソフトがなければ元のメールに戻す事は出来ない。
早速メールを 解凍ソフトにかけて解凍し、内容を確かめる。
ミハエルから来たものの内容は、ハッキングに成功し、ダウンロードしたデータの一部を現在、ジーンが解析しているというものであり、その後に届いたジーンのメールの内容はケミカルXの成分解析に成功した、というものだった。さらに添付されたテキストには、 一般家庭でも簡単にケミカルXを合成出来る精製法の一切が細かく記載されており、さらに材料の一部を微妙に変更する事により多種多様のPPGが誕生する可能性も付け加えられていた。ただし、製作者が思うようなPPGを誕生させられる可能性は、さすがに明記してはいなかった。
そして、こんな文章も 添えられていた。通常、劇薬指定のケミカルXみたいな危険な薬品なら、未熟な子供よりも大人の専門家の手によって精製してもらった方がより合法的であり安全だろう。しかし、自分達のやろうとしている事に関して、他の大人達が水を差してくるだろう事は明らかであり、事が事だけにこの計画を他の 悪い大人に利用される危険だってありうる。だからこそ、例え危険であっても全て、自分達の責任でこの計画は行わなければならない。
マサトシ本人も同意した、ジーンの言付けだ。さらに、文章は続く。
送られたメールには、ジーンと ミハエルがどういうPPGを創ろうとしているかという明確な目標も明かされており、ジーンは電気を、ミハエルは自然を操るPPGを考えているという。それを見て、マサトシは頭をかかえた。
正直、PPGを助ける事だけが頭の中でいっぱいだっただけに、具体的に自分はどんなPPGを創りたいかという 目標を全く考えていなかったのだ。
一体どうしようか、と考えたマサトシの目を、ジーンのメールのある文章がとらえた。
肝心のPPG誕生に関する記録が、博士の研究室になかったというのだ。あるいは、コンピューターに記憶せずに別のところにバックアップを保管しているのかもしれない、という 可能性もジーンは示唆していた。
このままケミカルXを使って実験を開始すれば、完全なコピーPPGが誕生する可能性は極端に低くなるし、予測のつかない事態も招きかねない。
ならば、やはり直接、博士の研究室に行って記録を手に入れるべきなのか?
そうマサトシが思った矢先、玄関のチャイムが 鳴った。ノイマン夫人:「は〜い」
以外に若若しい表情のマリー・ノイマン夫人が来客に応対する。
玄関に立っているのは赤いビジネススーツに身を固めた、スラリと背の高いキャリアウーマン風の女性だ。小脇には小箱を抱え、誠実さを湛えた口調で用件を話し始める。女性:「タウンズビル市長の秘書で、べラムと申します…実はある人物の要請で、こちらに御住まいのマサトシ少年に用件がありまして…」
普段は温和なマリーも一瞬、困惑した表情を示したが、PPGファンのマサトシの事を思い出し、快くべラムを招き入れた。
下の階から 呼び出されたマサトシも、予想だにしなかった来客に困惑しながらも、自分の部屋に招き入れた。程なく、2階のマサトシの部屋に入ったべラムが、淡々と話し始めた。
ミス・べラム:「…貴方の事はジーン博士から覗っております。タウンズビル市民として貴方のような少年が 真剣に、あの娘達の事を気にかけてくれていたとは…感謝の言葉もありません。」
マサトシ:「あの…ジーン博士って、イギリスの…」
ミス・べラム:「はい。十代前半にして3つの博士号を取得された天才少年、ジーン・ベクターシュタイン博士の事です。そして、 同時に貴方の友人でもあります。」
マサトシは瞬時に理解した。すでに政界や学界でも顔の広いであろうジーンなら、直接秘書のべラムに記録の確保を依頼していたとしても不思議ではない。
ジーンの存在の大きさと同時に自分の力の無さを痛感し、落ち込むマサトシ。それを目の当たりにし、べラムが一通の 封筒を手渡す。
中はプリントアウトされた秘書べラム宛のメールの内容だったが、送り主はジーンだ。
その中身を読んで、マサトシは胸が熱くなった。ジーンはそのメールの中で、自分がPPGに関して心配する余り、突飛な行動をしでかす事を心配して、秘書べラムに使いを頼んでいたのだ。
メールの 内容を全て確認し、マサトシが顔を上げると、べラムは持ってきた小箱をマサトシに手渡した。ミス・べラム:「これはユートニウム博士の研究室から発見した、PPGの誕生に関する映像記録です。」
手渡されたその箱の大きさから察して、ビデオテープ一本でも入っているのかと、 マサトシは思った。同時に、この深刻な事態の中で、平然とした態度で貴重な資料をいとも簡単に、見ず知らずの小学生に渡した、この有能な秘書の心中を、彼は計らずにはいられなかった。
次の瞬間、疑問は自然に会話として表れた。マサトシ:「…これがどうして必要なのか、聞かないん ですか?」
ミス・べラム:「…博士は市長や、他の政府機関にも一切目も呉れず、私個人に直接、依頼を送ってきました。恐らく、博士なり…いや、貴方達なりにPPGを救う為に、何かを行おうとしているのは理解出来ました。私は、貴方達を、信じます。」
秘書べラムの口調や態度から 見て、この女性は信じるに足ると言えると、マサトシは素人ながら直感的に思った。
確かに、自分達のやろうとしている事は、目的を間違えればテロリズムと間違えられてもおかしくない行為だ。少なくとも、ジーンは秘書べラムの事を信頼して、彼なりに自分達のやる事をいくつかは明かしたのかもしれない。 もちろん、彼女の誠実さと聡明さを見込んでの話だ。
都合の良い考えと自分で思いながらも、そう考えれば納得のいく話だ、今はそう思うしかなかった。
手渡された箱の蓋に手を伸ばし、箱をあけると、彼女が言った通り、箱の中には厳重に梱包された1枚のディスクが入っていた。
早速自分のパソコンに ディスクを挿入し、ファイルを開く。映像は、マサトシ達も知っている、例の画面だ。
ユートニウム博士が材料をかき混ぜている最中、一匹の猿が博士の背後から力任せに背中を押し、拍子に材料をかき混ぜる棒がケミカルXの容器を割り、容器の中身が材料に注がれる。
その直後、強烈な化学反応が 起こり、そこで一旦、映像は途絶える。これらの映像にPPG誕生の何かのヒントが隠されているのか、目の当たりにしている二人には理解出来なかった。しかし、ジーンならこの謎をきっと解けるはずだ。そうマサトシは考えた。
ミス・べラム:「確か博士は、独自の暗号化ソフトを作って、 親しい人物とのやり取りはそれを通して行っているとか…きっと貴方にこのディスクの事を依頼したのも、秘密を厳守したい事情があっての事でしょう…ですから、私が協力出来る事は、ここまでです。後は…」
マサトシ:「…有難うございます、ミス・べラム! 」
拳を握り締め、マサトシは興奮を隠し切れなかった。それは、苦悩がほんの少しだけ、希望に転化した瞬間だったのだ。同じく秘書べラムも、何か心の重荷がいくらか軽くなった様な、安堵の表情を浮かべた。
話題が一段落した所で、ドアをノックする音が聞こえた。
マサトシがドアを開けると、 マリー夫人がコーヒーを持って立っていた。
コーヒーを乗せた盆を受け取り、マサトシは別の話題を秘書べラムに尋ねた。質問とは、やはり例のPPG失踪事件だったが、彼の憧れの地でもあったタウンズビルに関する事も、彼は矢継ぎ早に質問した。その問いに、秘書べラムも快く答えていた。ミス・べラム:「…そうねえ…市長があの調子だから、主だった情報は大体私が整理しているんだけど、私がここにやって来る時点ではまだ、彼女達の消息は手がかりすらも…あ、私も、そろそろ戻らないと。市長が心配してるから、ね?」
少々愚痴も混じった会話もそこそこに、時計を確認した秘書べラムは、帰り支度を始めた。
自らに課せられた使命を終え、秘書べラムはマサトシと固い握手を交わし、ようやく帰路に就いた。
その別れ際、彼女は一枚のモンタージュをマサトシに渡した。ミス・べラム:「…まさか こんな遠い所まで、来るとは思わないけど、実はこの娘も探してるの…もしネット上で手がかりが見つかったら、連絡して頂戴。」
それは彼より少し年下の、可愛らしい女の子のものだった。事情を聞けば、数日前からユートニウム博士の自宅に同棲し、PPG失踪とともに行方不明になったという。いわゆる重要参考 人物、といった所だろうか。
自分一人きりになった部屋の中で、マサトシはモンタージュ写真を眺めながら、この女の子の事を考えていた。マサトシ:「PPGの失踪先でも、知っているのかなあ…?」
頭の中で呟く。
しかし、それよりもまず先に、この映像をジーンに送らなけれ ばならない。
自分に課せられた使命にせかされて、彼の頭からしばらく、彼女の事は心の奥底にしまわれる事となった。
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