第2話 「光と闇のPPG」 キャプチャー3

閲覧にあたっての注意:
この物語を読むにあたって「文字が細かくて読みづらい」ような不都合が生じた 場合、ブラウザの「表示」→「文字のサイズ」をクリックし、表示される文字の大きさを設定しなおす事を おすすめします。なお、文章表現や内容に関して、一般向けに公開したと言いつつも一般社会の定義と照らし 合わせて馴染みのない表現が数多く存在している事も事実であります。あらかじめご了承下さい。

 その日の夜、ディスクから映像をコピーしたマサトシはデータを暗号化し、イギリスのジーンの元に送った。
 もちろん、そのデータには、その日のミス・べラムとのやりとりと、ジーンの配慮に対する彼の感謝の言葉も添えられていた。

 そして夜も更け、ノイマン宅の周囲を虫の声が包む頃、ようやく マサトシは仲間との会合に合流した。
 マサトシが自分用のウィンドウを開いた時、すでにウォンとシンを除く全ての仲間がやって来ていた。話題は専ら、彼がもたらしたデータによって、PPGの誕生の秘密がついに解明された事だった。
 最初の挨拶はミハエルからだった。

ミハエル: 「おっす!」

マサトシ:「…やあミハエル。メールは届いてたよ…」

 少し照れた表情で現われたマサトシに、早速視線が集中する。

ジーン:「ミス・べラムはうまくやってくれたみたいだな…」

マサトシ:「ジーンが上手く段取りしてくれた 御陰だよ…」

マーシュ:「そんなに謙遜する事はないわ…ちゃんと連絡が取れた事でも、立派な事だもの。」

マリーナ:「脳ミソまで筋肉のどっかの格闘バカよりは100万倍、役に立ってるわよ…もっと自信を持って!」

 周囲から彼の懸命な行動ぶりを賞賛する声が溢れる 中で、それでもマサトシは顔を赤くして、縮こまるばかりだ。
 そんな彼を囲む仲間の輪の中で、一人キャシーは少し憮然とした表情で見つめていた。
 一人彼女の不満気な雰囲気に気付いたマーシュが、彼女の不機嫌の訳を尋ねた。

マーシュ:「…どうしたのキャシー?」

 ところが、 彼女が答えた不機嫌な理由は、意外なものだった。

キャシー:「…ミス・べラムに会ったのね…」

 ようやく周囲も彼女の不機嫌を察知し、視線が集中する。

ミハエル:「…それが、何か?」

 一息の間黙り込んだキャシーが、重い口を開く。

キャシー:…美人、だった…?

 その言葉を聞いて、ジーンとマリーナが大爆笑していた。つられて、キャシーとマサトシを除いた他の参加者も声を大にして笑った。

キャシー:…何よォ、もう!!

 腹を立てたキャシーの表情が、思いっきり膨れっ面になる。その怒った顔を見て、ようやくジーンが彼女を宥める。

ジーン:「…あはははは…いや悪い悪い、君がやきもちを焼いていたのが、マサトシじゃなくて…」

マリーナ: ミス・べラムだったんでしょ?」

 露骨に指摘されて、キャシーの顔が真っ赤になった。一方のマサトシは訳が分からず、呆然としていた。

マーシュ:「キャシーは貴方が、ミス・べラムに夢中になったんじゃないかって…でも、 違うよね?

マーシュが気を利かせて、マサトシに尋ねた。
 途端に顔を真っ赤にして、マサトシは大慌てで否定した。確かにミス・べラムは絵にも描けない美人だったけど、肉体的な魅力よりも知的な存在感にカッコ良さを感じていた、というのが彼の正直な気持ちだった。しかし同時に、その尊敬の 感情すらも、キャシーのやきもち焼きに油を注いでいるのは明らかだ。彼女のこの感情は、マサトシにとって魅力に感じると同時に、少なからず頭痛のタネになっている事も事実だった。
 懸命に自分を宥めようとするマサトシを見つめて、キャシーもようやく機嫌を改めた。それでも、半ベソ状態で文句を言う彼女の顔は、 とても彼より年上に見えない。

キャシー:「…みんな人事だと思ってェ…」

 さすがに周囲も気を配って、無理やり話題を変えた。

マリーナ:「…そう言えばジーン、映像の解析の結果はどうなってるの?」

ジーン:「あ?ああ…それだったら、すぐに分かったよ、あれなら…」

 その言葉で、周囲の空気が一気に静かになった。皆、ジーンの次の言葉を待っていた。
 そして、ジーンが口を開く。

ジーン:「実は、実験の際の材料のかき混ぜ具合とか、ケミカルXを混ぜる タイミングを計って、さらにタイミングをずらした場合の化学反応の変化とか、シュミレーションしてみたんだ。」

 そう言い終わるや、メンバーのPCにジーンのメールが届けられる。
 添付された実験結果のシュミレートの結果表の一部が、赤く塗られているのが目に入る。そこに、ジーンの解説の言葉が続く。

ジーン:「この赤く塗られている部分のデータが、最も成功する可能性の高いタイミングだと思う。ついでに実験装置の見取り図も考えたから、各自で創る時に参考にしてみてくれ。」

 ジーンの解説が終わるや、周囲が又、別の緊張に包まれた。

ミハエル:「…へッ… いよいよ実行に移す事ができるんだな、ジーン?」

ジーン:「まあな…だがその前に、皆に一つだけ注意事項がある。」

 それを聞こうとした時、残りの二人がようやくウィンドウを開いた。

シン「〜いやぁ悪い悪い、ちいとたてこんじまってなあ…」

ウォン:「会話の内容は把握してるから、続けてくれよ、ジーン。」

 どうやらウォンは会話の内容をバックアップしていた様だが、シンは本当に急いで来た様子で、会話が合わない。

シン:「何が?」

ジーン:「…ああ、シンには俺が直接説明するよ。 …で肝心の注意事項だが、絶対にケミカルXは直接飲んだり、他の生物につけたりしない事。でないと…ここからは俺でも予想はつかない。」

マーシュ:「…良くない事が起こるのね?」

マサトシ:「…という事は、ジーンが送ってくれた 精製法は、一回で使い切る分の量のものだったんだね?」

ジーン:「その通り!」

キャシー:「でも、失敗する事を考えて、もっと沢山精製出来た方が…」

マリーナ:「そんな事してもし精製に失敗したら、運が悪いと部屋ごと吹っ飛ん じゃうかもしれないよ!」

ミハエル:「…やれやれ…薬自体の精製も、ぶっつけ本番みたいなものかよ?」

 精製に失敗した時の大惨事を想像して、皆背筋が寒くなった。その中でマサトシが、この言葉を語った。

マサトシ: 「…でも、ジーンが送ってくれた順番の通りに、集中してやれば、大丈夫だよね?」

ジーン:「…正直、俺も本当にうまく行くかどうか、分からない。これは半分、賭けみたいなもんだ…自信が無い奴は、即座にデータを 消去してくれ。強制はしない。」

 皆、黙り込んだが、マサトシは速攻で返答した。

マサトシ:僕はやるよ!…もう、ためらってる時間はないんだ!

 マサトシの真剣な眼差しが、ジーンの目を 捕らえて離さない。
 そんな彼の決死の覚悟を瞬時に悟ったジーンも、彼の勇気に後押しされて、この言葉を語った。

ジーン:「…確立が五分五分なら、俺も実行する方に賭けるぜ!

 互いの力強い言葉に、二人とも胸の内が 熱くなった。
 そんなジーンとマサトシのやりとりを見て、次に名乗りを挙げたのはウォンとミハエルだった。

ウォン:「うまくいったら、これ以上面白い事はないからな…ものは試しだな。」

ミハエル:「…そう言えば御前、 どういうPPGを創るか、考えてるのか?」

 気楽な様子のウォンに、ミハエルが尋ねる。

ウォン:「俺はあえて防御重点のPPGを創ろうと思うよ。ミハエルは自然を操る奴、だったよな?」

 そんな やり取りに、突然マリーナとマーシュが割って入る。

マリーナ:「ずる〜い!みんなでアタシを置いてけぼりにして!まだあたし、やらないと言ってないもん!」

マーシュ:「攻撃や防御だけが戦いじゃないわよ!傷はどうやって直すつもり?」

 マーシュのこの言葉に、 野郎二人の関心が集中する。

マーシュ:「…私は、傷を癒すPPGを創ってみたいの…」

 この言葉にシンが口を挟もうとしたが、ジーンが即座に止めた。

ジーン:…そういうPPGも、あり かもな…

 ジーンの制止を振り切って、シンがひときわ声高に言った。

シン:甘いぜみんな!光線技とか超能力くらいなら元のPPGでも付いてるもんだ。俺だったら…必殺のパンチキック格闘技だ!…オイみんな…何、無視してんだよオイ!!!」

 皆の間ではシンがどんなPPGを考えていたかは、すでに分かりきっていたので、それをあえて口にする者はいなかった。

マリーナ:「…そう言えばマサトシ、あなたはどんなPPGがいいの?」

 唐突に質問されて、マサトシは戸惑った。

マサトシ:「…ごめん。まだいいアイデアが浮かばないんだ…」

 浮かない顔で答えるマサトシに、マリーナが言った。

マリーナ「…アンタってもう…一生懸命の余り、他の所がまるで見えてないんだからァ?…あたしは ねえ、小説の「三銃士」みたいなのを考えてるの!貴方ももっと想像力鍛えなさい!」

マサトシ:「うん…」

 会話が終わった所でキャシーが無理やり間に割って入る。

キャシー:「…じゃあ、あたしと 御揃いで、和風なPPG創ろうよ、ねえ?」

 他人への余計なおせっかいとは違う、何か強烈な意思を秘めたキャシーの迫力に、マサトシもさすがに閉口した。
 その時、間隙を見計らってウォンが割って入った。

ウォン: そこまで!御前の地元じゃもう夜中だろ、マサトシ?そろそろおひらきの時間じゃないのか?」

 その言葉を聞いて、マサトシは時計を確かめた。
 確かに、時計の針は午前三時に差しかかろうとしていた。ネットに夢中になる余り、こんな事はよくあったので、この頃は さすがにノイマン夫妻からも注意を受けてる事もよくあった。

ミハエル:「ま、一晩寝れば何かいい考えでも浮かぶだろうし…そうしなよ?」

マサトシ:「…うん…そうさせてもらうよ、みんな、おやすみ」

 挨拶もそこそこに、マサトシはウィンドウを閉じた。閉じる一瞬の 間に、キャシーがうらめしそうな目で自分の事を見つめていた事も、彼は気付く事はなかった。
 最近は何かと余計に気を使う事が多くなり、時間に気付いた途端余計に猛烈な睡魔が襲ってきたので、彼も皆の言葉に素直に従ったのだった。

マサトシ:「…明日になったら、いいアイデア、浮かばない かな…」

 さすがに普段の気苦労もあって、ベッドの中に潜り込んだ途端、彼はぐっすりと眠り込んでいた。


 一方、マサトシの去った例の集会の場では、

ウォン:「…気持ちは理解出来なくも無いけど、余りあいつに余計な気苦労はかけない方がいいんじゃないのか?」

キャシー:「…だってぇ…」

 マサトシの事で思いっきり釘を刺されて、キャシーは思いっきり凹んでいた。

マリーナ:「…でも羨ましいなぁ…少なくともマサトシは、キャシーの事大好きなんでしょ?あたしなんて…」

 マリーナのこの言葉で、ウォンの顔色が真っ青になった。

ウォン:「…あ、 あのなぁ…俺はだなぁ…あ、そう言えば俺、野暮用があったんで、ここでオヒラキって所かな…あはは…」

 満面にバツの悪い表情で引きつった笑いを残し、ウォンはそそくさとウィンドウを閉じてしまった。

マリーナ:「…もう、ちょっとは御話くらいしてくれたって良いのに… ウォンの馬鹿ぁ!

 ろくに挨拶もせず、マリーナもウィンドウを閉じてしまった。

シン:「…やれやれ…女ってワケの分かんない所で手強いよなぁ…参ったモンだぜ」

ミハエル:「…ああ、お前よりもずっとな!」

 露骨にからかわれたにも関わらず、シンは素直にそう思った。

マーシュ:「…でもあの子、どんなPPGを創ってくるのかしら?」


次の日。
 運良く家の者がすべて出かけた時間を見計らって、前持った材料をガレージに持ち込んだマサトシは実験を開始しようとしていた。
 いくら家庭で精製出来る環境とはいえ、ケミカルXは劇薬指定の危険な薬だ。手違いを起こせば大問題になる事は必至、家の者にも迷惑がかかるかもしれない。それでも彼を実験に 駆り立てる強い決意、それはやはりPPGへの強い思いだった。
 思いこみの深さをよく他人に指摘されているマサトシは、前もって実験装置を簡単に準備できるように見取り図に改良を加え、それに基づいて設置が容易な装置を作ってガレージに隠しておいたのだ。さらに材料の砂糖、香辛料、そして「いいもの」も同じくガレージの 一角に隠していた。車を頻繁にいじる事はないと彼は考え、事件の準備に時間をかけて用意していた。
 ただし、ケミカルXだけはやはりPPGの創造実験の直前に行わければ、次に実験を行うチャンスを得る事は難しいと考え、マサトシはこの機会にすべてをつぎ込む覚悟を決めていた。
 ジーンが送ってくれた精製方法と分量を 慎重に確認し、容器に次々と薬を加え、精製の際に発生される気体は全て実験装置の中に手動で送りこまれる。気体が外に漏れれば、毒ガス騒ぎと間違われるかもしれないからだ。
 やがて、容器一杯に黒い液体が満たされる。正確に精製されたかを確かめる簡単な方法も、ジーンが先に指定してくれた試験紙で確認出来た。

 自前のケミカルXが出来あがった時、時計の針は午後3時を指そうとしていた。もう少し時間が経てば、家の住人の誰かが帰ってくるかもしれない。
 意を決したマサトシは、ついにPPGの創造にとりかかった。

 砂糖と香辛料、ここまではオリジナルのPPGと同じだ。
 彼が「いいもの」として用意したのは、 普段から彼が大切にしていたPPGの玩具や、ぬいぐるみ等のグッズだった。これらの材料でどんなPPGが誕生するのか、又はどんなPPGを創ろうか、彼の頭には結局、何も浮かばなかった。ただ、PPGを救うためのPPGを創りたいという思いだけが、この材料を選ばせた。
 料理に使うにはやや大きめのボウルに三つの 材料を入れ、それらを調理用の棒でゆっくりかき混ぜる。その時、マサトシの頭の中でイメージしていた映像は、先に秘書べラムが渡してくれた、あの映像だった。
 それでも、ジーンの指示したかき混ぜ方、薬を混ぜるタイミングを慎重に測りながら、ついにマサトシはケミカルXの瓶を棒で割り、薬を注いだ!

ドオオオオオオオオオオオンンンンン!!!!!!!!!!!

 途端に強烈な化学反応が起き、爆風でマサトシはガレージの壁に叩きつけられた。
 凄まじい衝撃で、彼は壁に身体をあずけたまま、気を失ってしまった。

 しばらくして、マサトシは何か騒々しい雰囲気に意識を取り戻した。
 意識が 戻りかけたとき、頭と背中に重い痛みが響く。その痛みで目が覚めた時、彼はようやく周囲の状況が把握出来た。閉ざされていたガレージのシャッターは開け放たれ、彼の周りは近所の住人たちが心配そうに取り囲んでいた。
 恐らくあの爆発音を聞きつけて駆けつけたのだろう。そう考えて、マサトシは観念した。下手すれば日本に 送り返されるくらいの重大なヘマをやってしまったのだろうと、半分彼は諦めていた。
 その時、彼を取り囲む視線の中に、何か特別な誰かの視線が混じっているのを感じた。
 マサトシが上半身を起こすと、ようやくその視線の持ち主の正体が見えた。
 それは、PPGに良く似た小さな女の子三人組だった。彼が立ち上がろうと すると、その子達も彼の視線に合わせてゆっくりと浮かび上がって来る。
 思わず、周囲から歓声の声が上がる。その中に浮かんでいる姿さえ、PPGにそっくりだった。
 ただ、髪の色や服、瞳の色が明らかに彼の知っているPPGと異なっていた。
 目の前に映る光景を見てマサトシは一瞬、頭の中が真っ白になっていたが、 それでも心を落ち着かせ、この小さな女の子達に話しかけた。

マサトシ:「…君達は…まさか…」

女の子三人:「はじめまして、博士!

 真中の赤い長髪の女の子が自己紹介を始める。

赤い髪の子:「私の名前は、 ブライト!

続いてピンク色のおさげの子が自己紹介した。

おさげの子:「あたし、ブルー!

最後に黒髪のショートカットの子が自己紹介した。

ショートの子:「あたしは、 ブレード!

三人:「あたし達、3人合わせてパワーパフ・ガールズ!!!

 又しても周囲から、大きな歓声が沸きあがる。
 呆然と立ちつきすマサトシの身体についた埃を、ガールズ達が払い 落とす。

ブルー:「も〜博士ったら、凄い埃まみれよ!どうしたの?」

ブライト:「博士ぇ、何か身体の具合が悪いみたいだけど…大丈夫?」

ブレード:「二人とも!あたし達が生まれた時の衝撃で、博士は吹っ飛んだの。早く手当てしないと…」

 ようやく事態を飲み こんで、自分の実験が成功した事を確認したマサトシは、喜びの余り思わず三人を抱きしめた。嬉しさの余り、思わず涙も流していて、言葉も言葉にならなかった程だ。
 そんな彼の背後に、わざとらしい堰払いをして、険しい表情をした男が立っていた。

マサトシ:「…あ…マセールさん…」

 自分が 置かれた事態の重大さを思い出し、マサトシは顔面蒼白になった。こんな大騒ぎを起こした以上、ぶん殴られる位では済まないだろうと、彼は覚悟した。
 その時、複雑な表情のマセールに、ブレードが顔を合わせる。視線と視線が火花を散らし、一触即発の危険な雰囲気だ。

マサトシ:「…駄目だよ殴っちゃ!…その 人は…!」

 慌てたマサトシが止めに入ろうとする。
 次の瞬間、マセールはブレードの胴を掴み、赤子をあやすような感覚で高く上げる。その顔は先の怪訝な雰囲気とうって変わって、子煩悩な顔つきだ。

マセール:「…中々可愛いもんじゃねえか、マサトシ?」

 ブレードも訳が分からず、不思議な顔をしてなすがままになってあやされていた。

 その晩、誕生したPPG達を伴って、マサトシはマセール夫妻とノイマン夫妻に全てを打ち明けた。PPGが誕生してしまった以上、自分だけで隠し切れないと観念してでの決断だった。

アダム:「…しかしそういう事なら、 私達にも一言、ことわっておくのが礼儀ってものじゃないのかね?」

マサトシ:「…ごめんなさい…でも、言ったら絶対に止められると思ったし、これが別の大人の耳に入ったら、別の問題も起こると思って…」

マリー:「別の…問題って?」

マサトシ: 「…はい…この秘密が国の機関に漏れたら、絶対に軍用兵器みたいにされると思って…」

 この言葉を聞いて、さすがに大人4人は唖然とした。どうしたらそんな発想に結びつくのか、と。

アダム:「…ま、我々もそんなに一方的に国を信じる気にもなっていないが…確かに 子供の手でPPGが出来ると分かった日にゃあ、軍隊だって黙っていないと思うが…」

 しおらしく淡々と話すマサトシの様子を見ていたPPG三人は、それぞれ彼と大人4人とのやりとりを聞いていたが、やがてひそひそと話し始めた。

ブライト:「…あのう… あ、あ…」

アダム:「私の名はアダムだが?」

ブライト:「…アダムさん…博士は…怒られているんですか?…私達の事で?」

アダム:「…そうじゃないよブライト。彼は私達に君達が生まれた経緯を話しているんだよ。そして…」

マセール:「僕達は君達の身の振り方について、どうしたら君達にとって良いのかを相談しているんだ。」

ブレード:「…でも博士、とっても困った顔をしているよ?」

マリー:「それはね、貴女達を一人で請け負おうとして、頑張っていたからなの。この子、人一倍頑張り屋 だから…分かる?」

マセール夫人:「でも、ご近所にも彼女達の事は知られちゃったし…どうしましょう?」

アダム:「それなら、私が新聞で彼女達の事を説明すればいい。ただし、誕生の経緯はあくまで秘密でな…」

マセール: 「逆に、スクープとして発表すれば?『PPG失踪の危機に新たなPPG飛来!』…てね?」

マリー:「…そんな無責任な…ただでさえ世間じゃPPG失踪で全米中が騒然としてるのに…そうだわ!」

 万策が尽きたと思われたその時、 マリー夫人が何かを思い出して叫んだ。

マリー:「タウンズビルのべラム女史に相談してみましょう!マサトシとも面識があるみたいだし、何かいい案が浮かぶかもしれないワ!」

 先立って、秘書べラムが訪問した際に、彼女は名刺を預かっていた事を思い出した。

アダム:「なるほど、タウンズビルの市長の秘書か…彼女ならそれ相当の事に詳しいだろうし、ひとまずメールで連絡しておこう。」

 一方、事情が今一つ飲み込めない三人は、不安を隠し切れず、マサトシにしがみついていた。

ブルー:「博士ぇ…私達、どうなっちゃうの?」

マサトシ:「心配しなくていいよ…それより、僕は博士じゃなくて、マサトシっていうの!」

ブレード:「じゃあ、マサトシ博士?

マサトシ:マサトシ、だけでいいの!」

 そんなやりとりの最中にも、 アダムは自前のノートブックPCでメールを打っていた。
 ノートブックを閉じ、一息ついたアダムが、三人に話しかける。

アダム:「…さてもう遅いし、君達の寝床の支度をしなくちゃな?」

マリー夫人:「…でも困ったワ…ベッドの空きがないし…」

 それを聞いたマサトシが即座に 言った。

マサトシ:「あ!僕は今夜は寝袋で寝ますから…三人は僕のベッドで休ませて下さい。」

三人:え〜??

 三人が一斉に、何か不満な声を上げた。

ブレード:「マサトシも一緒に寝よ〜よ!」

マサトシ:「…駄目!僕のベッドは小さいから、4人も入ったら誰か端っこに寝てると落ちちゃうよ!

マセール:「…まあまあ、彼の言う通りにしなさい三人とも。余りワガママ言って彼を困らせるんじゃないよ。」

 この言葉で、三人とも渋々承知した。

 昼間の 騒ぎと精神的な疲労で、マサトシもネットをする気力もなく、部屋に入ると寝袋を用意し、まだ少し落ち着かない三人を寝かしつけた。
 就寝用のライトをやや明るめに設置し、彼が寝袋に潜り込もうとした時、三人が言った。

ブルー:「…あのね、あのね、あの…」

 ふと、オリジナルのPPGを思い出した マサトシが、三人に尋ねる。

マサトシ:「…ひょっとして、おやすみのキス?

ブライト:…うん

 三人とも、ややはにかんだ表情で、期待して待っているのは間違い無かった。
 マサトシも 少し照れながらも、オリジナルのPPGの事を思い出し、三人の額にそっとおやすみのキスをした。

三人:おやすみなさい、マサトシ!

 今日一日の騒々しさと忙しさに思いを馳せつつ、何かほっとしている自分に苦笑しながらも、マサトシもようやく、眠りについた。


前の話に戻る 次の話に行く SSE入り口へ PPG36入り口へ