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マリーナとSPPGが紆余曲折の末にICPOの助けを借りてパリに到着した翌日、彼女達はルーブル美術館のガラスのピラミッド前に居た。
前日をマーシュの自宅で過ごした後、ICPOの要請で美術品盗難事件の捜査協力を依頼され、 パリ市警の警官達と一緒に現場の検証にあたっていた。が…幼いSPPGは現場検証そっちのけで美術館内の貴重な美術品の鑑賞に興味深々の様子だった。マリーナに至ってはフランス語は読み書きはおろか、話す事も出来ないので、警官の指示も チンプンカンプンな状態でうなずくしかなかった。幸い、ジーンの拵えたヘッドホン式の同時翻訳機の御蔭で、同じ機械を持つマーシュとは会話が可能だった。よってマリーナとパリ市警とのやりとりはマーシュを介して行われていた。
現場の捜査の指揮をとるパリ市警のモルデン警部は映画「ピンクパンサー」のピーター・セラーズを至極真面目にしたような雰囲気の人物で、今回の極めて重大な事件に際して、SPPGやマリーナみたいな子供の手を借りる事には正直不満では あったが、上司からの要請によって渋々、彼女達の面倒を見る羽目となっていた。
同じくICPOからの要請でマリーナ達と協力する事となったマーシュとFPPGは、意外と大人しく警官達の手伝いをしていた。
それより先に、 彼女達は現場検証の前に、現状で知りうる限りの犯行の状況のレポートを受け取っていた。それによると―盗難に会った美術品は絵画、彫刻、宝石、貴金属等、貴重かつ高価な物品ばかりが、厳重な警備を完全に掻い潜って盗み出されており、 その犯人は追っ手をあざ笑うかの如く、御丁寧にも自分が何者であるか示す証拠をわざと現場に残していったのである。
FPPGとSPPGが召喚された理由、それはこの盗難事件の犯人がPPGと因縁浅からぬ間柄であった事にほかならない。
その犯人―セデューサは、自分のサインの入った手書きのメモをわざと現場に残しながら、各国の名だたる美術品を盗み出す犯行を繰り返していた。しかも、彼女のこの犯行が表沙汰になったのは、例の悪党3人の世界制服宣言のすぐ後 だった。
確たる根拠がなくとも、セデューサと悪党3人の関係を思い浮かべるのは、捜査の素人でも当然の成り行きである。
一方、盗難品の全リストと過去のセデューサの犯行記録を調べていたマーシュは、ある事実を発見する。
盗難品のリストの中に、全く目立たない物品が一つずつ、盗難に会った美術館や博物館にある事である。
しかし警察側は高額な貴重品の盗難という事実に関心を奪われており、この事を口にしたり、疑問に思う人間は誰もいなかった。
初めは何かの偶然かと思って注意を払わなかったマーシュだったが、ブルームが特にこの目立たない盗難品に関心を示すのを見て、念の為にこの盗難品を調べてみたのだった。その結果、以下の事実が明らかになった。一見、一般の 人間には関心の寄せ様のない謎の盗難品だが、実は考古学的に未だ解明が不可能な領域に止まっている、いわゆる「Oパーツ」と称される種類の遺物であるが、その盗難品の全てが形状的にも様式的にも難解すぎて、調査する側がサジを投げ出しっぱ なしにしたまま、今日まで手を付けられずに保存されていた物ばかりである。もちろん、素人の目にはもちろん、名だたる学者でさえ、これらに共通する学術的な要素を見出す事は不可能と思われた。
ただ、この盗難品の事にいち早く気付いた ブルームは、別の疑問でこれらの事が頭から離れなかった。もしくは、彼女独特の思考からくる関心からでもあったのであろう。ブルームの頭の中には、これらから彼女独自の思考から想像される、あるぼんやりとしたイメージが浮かび上がって いたが、それが何かはまだはっきりとしていないらしく、これらの疑問をあえて口にする事はなかった。
ただし、マーシュにだけはこの疑問を明かしていた。ブルームが発する他の人間には些細な事にしか聞こえない物事にも、マーシュは 真剣に耳を傾けてくれていたからである。一方のベルとバードは、本来の能力が患者の看護という役目からか、捜査に関しては殆ど関心の示し様がなかった。だからその日の捜査の後半はお役御免という理由で現場から放り出され、 半ばふてくされ気分でマーシュの後ろをついて行くだけだった。マリーナとSPPGに至っては、ただ単にコピーPPGとそのパートナーという理由だけでわざわざパリまで担ぎ出されたにもかかわらず、全く捜査の役に立てなかった。
夕方になってようやくマーシュの自宅に帰ることが出来た一行は、結局何が何だかわからないまま、半分不機嫌なままで夕食をとる事となったが、マーシュだけは違った。
早速自宅のパソコンに向かうと、彼女はジーンとミハエルに 電子メールを送った。これらのOパーツに出来るだけ精通した人物を、二人の人脈を介して紹介してもらい調査に協力してもらう為である。その日の深夜。寝静まったマーシュの自宅に、けたたましい電話の呼び出しベルが響く。
最初に出たのはマーシュの両親だった。
程なく次に受話器を受け取ったのは、半分寝ぼけた状態のマーシュ本人だった。そして彼女が受話器を介して聞かされた事は、ルーブル美術館の保管倉庫から又しても美術品が盗まれたという、 モルデン警部の焦りの声であった。そこに、寝ぼけ状態から急に目を輝かせたSPPGが割って入る。ビショップ:「それで犯人はまだ逃走中なんですか?」
ブリッツ:「奴はどこの方向に逃げたんだよ?」
ブリーズ:「見失ってどれくらい経つんですか?」
モルデン警部:「一度に質問するな!」
警部の話によると、犯人はルーブル美術館から美術品を 盗んで徒歩で逃走中で、すでに10分もの時間が経過しているが、パリ市警の必死の捜査にもかかわらず完全に見失ってしまったという。
マーシュ:「〜ちょっと待って!今から駆けつけてももう間に合わないんじゃないん ですの?」
ブリーズ:「平気だもん!」
ブリッツ:「あたい達は最強最速のPPGなんだから、」
ビショップ:「どんな悪党だって私達からは 逃げられないもん!」
3人がこう言った後、マーシュが気付いた時には、SPPGの姿は煙すら残さずに消えて無くなっていた。
しかし、夜更けのパリ上空から見れば一目瞭然だが、細長いオレンジと ピンクとグリーンのストライプが物凄い速さでパリ中の道という道の全てを、電子回路上を駆け巡る光さながらに走り回っていた。否、色の付いた電子の光がパリ中を走り回っていると言う言い方が正確かもしれない。
その内のオレンジの 光が突然、ノートルダム大聖堂の側で止まった。ビショップ:「オーケー、デヴィアス!ドントムーヴ!!」
暗闇の一角を見据えたビショップが、決めの台詞を吐く。
すると暗闇が月夜の明かりに照らされて奇妙にゆらめきだし、それは一人の女の影の形を作った。
無造作に周囲に長く伸びた髪らしきものが不気味に変形し、髪の先端がトカゲの頭のような形に変わる。
程なくブリッツとブリーズも 駆けつけ、奇怪な女の影と対峙した。そして、黒い影の正体が月夜に照らされてようやく明らかとなる。それは、顔以外の肉体を漆黒のボディースーツのようなものに包んだ、奇怪な女の姿であった。
豊満でありながら完璧に均整の 取れた女のシルエットからは、濃厚な官能の香りさえ匂いたつかの様であった。だが、頭部からなびく黒髪とおぼしきものは、ギリシア神話上の怪物メデューサのような蜥蜴とも蛇ともつかない奇怪な怪物の頭が無数に鎌首をもたげていた。ブリッツ:「もしかして、アンタが事件の犯人かよ?」
女:「あたしが?何を?」
ブリーズ:「えっとぉ…るーぶるぶじゅつかんから、泥棒した人、でいいんだっけ?」
女:「〜だとしたら、どうする訳?」
そう言った直後、女の黒髪が不気味にざわめきはじめる。 枝分かれした黒髪の先端が次々と怪物の頭へと変化し、その数は目に見えて増加していく。しかし、SPPGはたじろかない。
ビショップ:「御前を、逮捕する!」
そう言った直後、ビショップ自身も分身を繰り返し、女の周囲が分身で埋め尽くされてゆく。
女:「…全く、今日は なんて日かしら?あたしにヤキが回ったのか、それとも御嬢ちゃん達の運がよかったのか…」
女が口元をゆがめて皮肉笑いを浮かべる。
その直後、無数の怪物の鎌首がSPPGに襲いかかる。ただし、女はその身を微動だにしない。
その動きに対応してビショップの分身も俊敏な動きで怪物の攻撃をかわす。鎌首の一つが、分身の一つを貫く。
だが分身は消滅しただけでビショップ本人は全く動じない。
そしてビショップ本人とおぼしき姿が女に 攻撃をしかけようとし、さすがに焦った女が防御の構えを見せる。
その瞬間、かばった女の腕が歪み、そこから生えた数本の触手がビショップを弾き飛ばす。
体制を立て直すビショップが動きを止めると、たちまち無数の分身も姿を 消した。女:「なるほどねぇ…早い動きで残像分身を作っていたとは、厄介なガキだわね…でも、」
意を決した女がかばった腕を地面に向けて振り下ろすと、両腕の10本の指が触手となって地面にもぐりこむ。 そして、ビショップの足元から無数の触手が襲いかかる!
焦ったビショップが後ろに逃れようとジャンプしたが、触手の一本が彼女の胴に絡みつき、地面にたたきつける。間髪入れず、無数の鎌首がビショップめがけて殺到する。
だが、 間一髪の差でブリーズが彼女を救い出し、同時に無数の鎌首が散り散りにブッ千切れる。ブリース:「分身が駄目なら、これはどう?」
ブリーズがピンク色の光跡を残しながら高速移動を始めると、無数の触手と 鎌首がたちまち粉々に消滅してゆく。
女:「御前は衝撃波を使うか!」
女の身体が一瞬、小刻みに振動すると、ピンク色の光跡もそれに合わせて消滅した。
そのすぐ後に、鞭のように変形した女の右腕が ブリーズを弾き飛ばす。ブリース:「きゃああ?」
もんどりうって近くの木に激突するブリーズ。見上げた彼女が見た女の黒髪は、すでに鎌首が再生していた。
ブリッツ:「調子にのるんじゃねえ糞ババア!」
女:「!」
ブリッツの罵声に女が一瞬、眉を吊り上げる。
しかし、 ブリッツが次に行った行動は、彼女の予想外なものだった。
緑の軌跡と化したブリッツが猛攻を仕掛ける。その間も、女の耳元に彼女の「糞ババア」という罵声だけが繰り返しリフレインする。
次第に女の怒りのボルテージが上がる。女:「いい加減におし!」
女の怒りが頂点に達し、怒号とともに鎌首と触手がブリッツを突き飛ばす。
ブリーズ:「なら、次はアレよ!」
ビショップ:「ブリーズ、ブリッツ!」
ビショップが合図すると、SPPG3人は規則正しいフォーメーション体制を取った。
ブリーズとブリッツの姿が消えたと同時にビショップが再び分身し、女に猛攻撃を仕掛ける。 その手にはスーパーパワーを光の剣に変えたエネルギーソードが伸びており、反撃を試みる触手や鎌首をたたき切りながら女へと迫る。
見た目には先のビショップの攻撃とさほど変わっていないように見えるが、女の顔にさっきまでの余裕は もはや見られなかった。彼女が受ける手ごたえは、ビショップ一人を相手にしていた時と全く違っていたのだ。 そしてビショップであるはずの分身から、ブリッツの罵声が女の焦りを掻きたてていた。
さらに女の注意が鈍った所に思わぬ 所から、ブリーズの衝撃波が襲いかかる。
だが、以外にも女の精神の苛立ちを盛り上げていたのはやはり、ブリッツの余りにもダイレクトな悪口の数々であった。次第に追い詰められていく女の怒りが頂点に達した時、女の頭部から 生えた触手が爆発したかのように無数に周囲に広がり、SPPGの無数の分身をかき消し、本体3人に強烈な打撃を与えて弾き飛ばし、3人は建物の壁もろとも吹っ飛んだ。
さすがのSPPGも衝撃の余りすぐに立ち上がる事も出来ず、女の方も一気に力を 使い過ぎたせいか、目に見えて疲労が目立つ。そこに、戦闘の現場を見つけたFPPGが駆けつけてきた。
形成不利と直感した女は盗んだ品を入れたずだ袋を慌てて握り締め、建物の影に溶け込むように消えていった。
そのすぐ後にけたたま しいパトカーのサイレンが近付いてくる。
FPPGに手助けされてようやくSPPGが辺りに目をやると、女の姿はもうそこにはなかった。そこに、汗だくの顔でモルデン警部が走ってきた。
モルデン警部:「畜生!… 逃がしたか!」
だが、悔しさを剥き出しにする警部とは対照的に、FPPGは涼しい顔だ。
ベル:「でも…ほらこれ!」
こう言ってべルとバードが大きなボストンバッグを差し出す。そこには、あの女が盗んだ 美術品の数々が無造作に入っていた。
何があったのか分からず、目を丸くするモルデン警部。そこにマーシュがマリーナと一緒に現れた。マーシュ:「SPPGと犯人が戦ってる間に、盗んだ盗難品を別のバッグに入れ 替えておいたんです」
SPPG3人:「えええ〜〜〜???」
モルデン警部:「君達…一体何があったんだね?それにこの品々は???」
詳細はこうだ。
実はSPPGが駆けつけた少し後にFPPGも現場にやって来ていたのだが、女が隠しておいた美術品をブルームが彼女のスーパーパワーを使って発見し、美術品を取り出した後、その場に散らかっていた適当なガラクタやゴミを代わりに入れて おいて戻しておいたのだ。
モルデン警部:「すると犯人が立ち去る時に持っていた袋の中身は、偽者か?」
ともあれ、盗難品が手元に戻ってきてひとまず、胸をなでおろす警部。そこに、ブルームが警部に一枚の紙を 差し出す。
ブルーム:「この人が、盗んだ」
そこには、美術品を盗んだ犯人の女の姿が、見事なまでに鮮明に写っていた。
モルデン警部:「こ、この女は…やはりあいつだったか!」
マリーナ:「でもぉ今はまだ夜中でしょ?カメラも持ってないのにどうやって写したの?」
そう不思議がって尋ねるマリーナに、ブルームが静かに答える。
ブルーム: 「念写」
モルデン警部&マリーナ&SPPG:「…はあ…?」
あっけに取られる5人。しかしFPPGの能力をよく知るマーシュはほくほく顔である。
緊張感が抜けて、SPPG 3人が足を投げ出してその場にへたりこむ。
ブリッツ:「あのさあ…来てるんなら援護くらいはしてくれよ、こっちはもうボロボロだよぅ」
ベル:「御免なさい(汗)」
バード: 「でも貴女達の御蔭で肝心の美術品が取り返せたしぃ、とっても感謝してるんだから(はぁと)」
ブリーズ:「それなら…後はよろしく〜もう体中痛くて痛くて(涙涙涙)」
そう苦痛を訴えて力の抜けたSPPGを見て、ようやく 治療を始めるFPPG。一方のモルデン警部と部下の警官達は盗難品の確認に余念が無い様子だ。
マリーナ:「へへッ、これであたし達の事、少しは見直してくれた?警部サン?」
だが、警部の返事は無く、少しタイミングを ずらして、
モルデン警部:「…やったあ!盗難品は全部無事だぁ!」
その声に何かを思い出し、警部に質問するマーシュ。
マーシュ:「警部さん、盗難品について教えて欲しい事があるんです けど?」
モルデン警部:「おう君か…何を、かね?」
マーシュ:「盗難品の中に、不自然なものがありませんでした?例えば…学術的に価値のないものとか…」
モルデン警部: 「うむ…私は美術品に関しては無学な方でよく分からんが、美術館の関係者なら間違いなく…おい君!」
警部が部下に指示を出し、美術館の関係者に連絡を入れて確認を要請する。しばらくして関係者から連絡が届いたが、事件の直後だった だけに現場が混乱し、現場検証すらまだ行われない状態だったので、マーシュの質問の回答には確実に時間がかかる事は間違いなさそうであった。
ともあれ、犯人逮捕には失敗したものの盗難品の奪回に成功した一同は一度、警察署に戻る 事にした。
マーシュ達は警察署でその夜を過ごして次の日、改めて盗難品の確認に同席した。
マーシュの思っていた通り、昨日の晩に盗まれた美術品の中に、一見価値の無さそうな遺物が一つ見つかった。
マーシュは美術館の 関係者の同意を得て、その遺物の詳細な資料のコピーを入手し、早速メールでミハエル宛に送った(ジーンはアメリカのマサトシの処に行っておりイギリスには不在であった)。一方、マリーナとSPPG、FPPGは一足早くマーシュの自宅に戻って いたが、昨夜の事件のせいで眠くて仕方が無く、居間で惰眠を貪っていた。
マーシュはと言うと、モルデン警部と一緒にとあるカフェの一角で遅い昼食を取っていた。
さすがの警部もコピーPPGの実力を目の当たりにして改めて感服し、 ちょっとした感謝の印としてマーシュを昼食に招待したという所だった。マーシュ:「あのう…犯人の事なんですけど、あの女の人って…」
モルデン警部:「ああ、君達とも因縁浅からぬ人物、かも しれないな…格好は変わっているが間違いなく奴は、セデューサだ」
マーシュ:「それじゃインターポールの追っている国際指名手配犯って…」
モルデン警部:「私もよく分からんよ…アメリカの窃盗犯が 何ゆえに、欧米は元より世界を又にかけて美術品の窃盗を続けているのか。しかも盗んだ品々は高価で貴重な物なら、美術品も貴金属も関係なく、一度に大量にかっぱらっていきやがる!タウンズビルのコソドロ女が、パリ市警をなめやがって…!」
マーシュ:「あのう、それで私達、これからどうなるんですか?」
モルデン警部:「その事なんだが、出来れば犯人逮捕が完了するまで、君達には協力を要請したい所なのだが、いかんせん君達は未成年だ。 無理をさせる訳にもいかん。しかし…」
マーシュ:「あの娘達の事を考えると、出来れば夜中の出動は避けて戴きたいんですけど…」
モルデン警部:「それなんだよ問題は! 夜と言えば泥棒の活発に動く時間帯に、よりによって我々の頼りにしている君達が活躍出来ないのが問題なのだよ!もう〜どうしたらいいのか〜!」
何時の間にか酒をあおって愚痴をこぼす警部を何故かなだめるマーシュ。心の中では 「大人も変な所で大変なんだなぁ」と、ちょっぴり警部に同情していた。
それと同時に、それまで調べた謎の遺物の関係がどうしても気になっていた。ふと、マーシュの上着のポケットの中の携帯電話が鳴る。 母親からのメールで、帰りにスーパーに寄って買い物をして欲しいとの事だった。
今度は自分の事で、短い溜息を漏らすマーシュだった。一方、メールを受け取ったミハエルは、知り合いに文系の学者がいないか調べるのに懸命であったが、さすがに考古学者を捜すには無理があったようで、頭を抱えていた。
溜まりに溜まった本の山を調べている内に、本の山の一つが雪崩を 起こし、彼の悩みにさらに油を注ぐ。
だが、偶然拾った小さな超常現象関係の雑誌の1ページを見たミハエルは、その紙上に小さく載っている、不思議な人物を見つけた。
香港島、銅鑼灣(コーズウェイ・ベイ)。
地元の住人は元より観光客、ビジネスマンの人影が絶えない休日の繁華街に、ウォンは久々に散歩に来ていた。
近代的な高層ビルと古めかしい商店街が一緒くたに混在する、妙に油臭いこの町並みは、 彼にとって当たり前の風景であるが、今日に限ってはささやかながら、特別な気分である。ブレイズ:「〜どうでもいいけど…暑いなあ」
ブレイク:「なあ、俺達ぁ何でここにいるんだ?」
バーディー:「今日は何か、面白いイベントとかあったっけ?」
しかし肝心のウォンの態度はどこかよそよそしい所があった。
ブレイズ:「ウォンよう、もしかして又、店の厨房に担ぎ出されるのが面倒で散歩だって嘘付いて 逃げてきたんじゃないのか?」
おもむろに尋ねるブレイズ。ウォンの口元が明らかに引きつっている。
ブレイク:「〜何だ、図星かよ?」
バーディー:「〜まあ、気持ちは分かるけどなあ…」
ウォン:「…はははは…やっぱりバレてるか?」
やれやれ、という表情で呆れるHPPG3人。
バーディー:「まあなあ…折角の天気なのに、あの人込みの厨房に押し込められるのは、俺も御免だけどなあ」
ブレイズ:「〜でもなあ、俺はまんざら、厨房で手伝いも、悪い気はしないけどなあ」
ブレイク:「ブレイズはウェイトレスのナンパ目当てだろうが?」
バーディー:「…ダサダサ」
ブレイズ:「悪いか!?」
ブレイク:「御前の将来を心配してやってんだろ?」
ウォンにとってはいつものHPPGの喧嘩なので、 大して気にも止めなかった。
何時もの事なので、放って置けばすぐに大人しくなるだろうと思っていた時、地元の帰宅途中の女子中学生の一団に出くわした。
その時点でもまだウォンは気にも止めなかった。コピーPPGの物珍しさの余りに観光客の 群れに取り囲まれる事は度々あったので、時間があればすぐに引き上げてくれるであろうという考えで、高をくくっていた。
だが、調子に乗ったブレイズが大騒ぎし始めたのをきっかけに、ブレイクもバーディーも毒気にやられて目尻が下がりっぱなしの 状態になってしまい、女の子が苦手なウォンは意に反して女の子の群れに取り囲まれる羽目に。その時、彼等のいる周囲が突然、広い影に覆われた。
見上げた空には、巨大な銀色の円盤が通り過ぎる所であった。中学生: 「あれ。どっかで見た事ない?」
だが、ウォンにはあの円盤には確かに見覚えがあった。
先に日本の東京上空に現れ、巨大軟体生物を投下していった謎の飛行物体に間違いないと彼は確信していた。地元新聞でも大きくとりあげられていた事を 彼はハッキリと記憶しており、日本にいるキャシーからの注意もあって、この時ばかりは彼は心の準備は出来ていた。
巨大な円盤は香港島上空を悠然と通り過ぎた後、大陸側の九龍市街の中央部で静止した。東京を襲った時のように、例の軟体生物を投下 するのも時間の問題かと思われた。ウォン:「HPPG、早くあの円盤を市街地から引き離すんだ!」
ウォンが叫んでも、返事は返ってこない。
彼が振り向くと、HPPGはまだ女子中学生の毒気にやられて理性が蒸発した状態 だった。咄嗟に、ウォンの無影脚が3人の顔面に炸裂し、HPPGはやっと正気に戻った。ブレイズ:「あだだだ…何なんだよ、もう?」
ウォン:「非常事態だ!あの円盤を市街地から引き離して…??」
ウォンが 円盤の方角に振り向き直すと、すでに円盤の底部から、例の軟体生物が落下していた。当然、中学生達は我先にと逃げ出し始めていた。
遅かったか、とウォンが思った時、理性を取り戻したHPPGが矢のように飛んでゆく。ブレイズ: 「あいつを市街地から引き離すぞ!」
ブレイク&バーディー:「おう!」
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