第3話 「謀略の都タウンズビル」 キャプター3

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 さらに、2日程が経過した。

 市長からのひっきりなしの要請でタウンズビル中を縦横無尽に飛び回るJPPG。
 自分達のコピー元がこんな苦労にもめげずに スーパーヒーローをやっていたのか、という感慨もそこそこに、交通事故処理に火事の消火に電柱から降りられなくなったネコの救出に大忙し。
 そんな彼女達の一日の疲れを癒すのは、 やはり大好きなマサトシとバルドの心遣いだった。二人のそれぞれの身の上を考えて公の場でおおっぴらに甘える事が出来ないのは不満だったが、それでも三人とも、辛抱強く自分達の 役目を勤めた。
 全ては大好きな二人の為に。

ブルー:「まさかビンの蓋を開けるだけで呼び出されるなんて思ってもみなかったわ」

ブレード: 「〜あれがあたし達以前のPPGの仕事に入っていたなんて…冗談もいい加減にして欲しいよ全く!」

ブライト:「…そんな事言ってる場合じゃないワよ!〜今度は あっちの方角から助けを呼ぶ声が聞こえる!」

ブルー:「交通渋滞の緩和だったら、今度こそは御断りよ!」

 そんな三人の姿を、数ある高層ビルの一角から絶えず 監視し続ける影があった。
 世界征服宣言を行った悪党の一人、モジョジョジョが放った悪のPPG、CPGである。

バミューダ:「〜基本的な能力はコピー元のPPGと相対的に変化は見うけられない。身体の構成成分に若干の相違点がある様だが…」

バビロン:「恐らくは、原材料の合成の際に別の成分を付加した事は、間違い無いだろう…だから、身体的特徴がオリジナルと異なっているのだろう」

ベルリン:「…奴等は郊外の秘書べラムの自宅に潜んでいる事もすでに判明した。オリジナルと 能力の違いが存在しない以上、我々の戦闘能力における優位は揺るぎ無い。ならば、このまま抹殺しても構わないのではないのか?」

バミューダ:「確かに、我等が主モジョジョジョの命令に従うのなら、このまま交戦しても問題はない」

 それまで冷静にJPPGの能力を解析していたベルリンが、右腕の砲塔をJPPGに向ける。人間の肉眼では 数キロメートル先の目標も、サイボーグ手術によって高められた彼女達の視力の前では目の前にいるのも同然である。
 砲塔の内部の破壊エネルギーが圧縮され、いよいよ目標に撃ち出されようとしたその時、バビロンがベルリンを制した。

バビロン:「…待て。目標に向かって別の何かが向かって来ている」

 バビロンが示唆した存在を、バミューダの 機械化された右目が捉えていた。

バミューダ:「〜運のいい奴等だな…」

 それは、プリンセスの元でオーバーテクノロジーの秘密兵器を授けられたギャングリーン ギャングだった。
 五人はプリンセスから渡されたブレスレッドの威力を試す為に、JPPGに挑戦しようという企みらしかった。
 しかし、遥か遠方より五人の姿を確認していた CPGは、すでに彼等の秘密兵器の解析を始めていた。

ベルリン:「…尤も、我々にではなく、あの下衆な者達の手によって葬られるだけ、不幸と言う他に無いか…」


エース:「…ククククク…あのお嬢チャン、よほどのお人好しらしいなァ…こうもあっさりと、俺達五人に秘密兵器を呉れるなんて、最高の気分だぜ!」

 時間は 十数時間前に遡る。 

プリンセスのアジト中央部の技術開発ブロックに案内された五人は、その場に待機されていた残り二人のSPGから「秘密兵器」を渡された。

エース: 「…何、これ?」

スネーク:「…まさか、これがあの嬢チャンが言っていた『秘密兵器』??」

 ブラックアウト、ブラックメールの手から渡されたその腕輪は、一見 ただの機能的なデザインの腕時計にも見えた。
 全員に腕輪が行き届いたのを確認して、五人を案内していたブラックジャックが説明を始める。
 彼女が操作パネルの一角を操作すると、 部屋の中央に立体映像で腕輪の説明図が浮かび上がる。そして、ブラックジャックが画面を操作しながら腕輪の操作方法を解説し始めた。

ブラックジャック:「…このブレスは 一見はただの腕時計としてしか見えない様に作られていますが、ある操作を行う事により、形状記憶化された武装服が瞬時に全身に装着されるようになっています」

 実際に腕にブレスを付けて、 目の前にかざすエース。他の四人もエースにならって、おもいおもいに眺める。

エース:「…で、どうやると、その…武装服ってのが、着られるのかよ?」

ブラックジャック:「まずは中央の時計の文字盤を強く押して下さい」

 説明画面が文字盤を押す説明の動画に変わり、立体的に浮かび上がるエースの姿が映し出される。画面の中の エースが文字盤を押すと、全身を光が包み込み、銀色の未来的デザインの強化服が装着される。

ブラックジャック:「基本的な操作は以上です…まずはミスター・エース、貴方から 試してはいかがです?」

 いきなりブラックジャックから指名されたエースは少々面食らったが、同時に先の説明にあった強化服がどんなものか、確かめたくて仕方がなかった。
 意を決めた エースが文字盤に人差し指を当て強く押した。
 途端に先の説明にもあった通り、エースの全身を稲妻のような光が包み込み、彼の全身に何かがぴっちりと覆われるのを彼は感じていた。
 光が収まる と、それこそ説明にあった通り、エースの姿は未来風の強化服に包まれていた。

スネーク、リトルアートロー、ビッグビリー:「…す、すげえ!!!」

 心なしか身軽になったような感じを覚えるエースは、床からせり出した鏡に映る自分の姿を見て、さらに驚いた。
 鏡に映った自分の姿は、説明にあった通りの姿そのままだ。
 ブラックジャックの説明が偽りでない事を自覚したエースは、子分達にも、自分がいま行った動作をやってみるよう命令する。

エース:「さあ、次はお前等の番だ!!」

 文字盤を押すようにせかされた四人はその指示に従った。目の前の現象と説明の内容がそのままであったという四人の見解に、もはや躊躇などい不要だ。
一斉に文字盤を押し、変身する。全身に纏った 形状や装備はまちまちだったが、四人ともエースと同じく、強化服を装着した。

リトル・アートロー:「これで俺達、強くなったのか?試してみるか?」

ブラックジャック:「強化服の性能を確かめたいのでありましたら、これよりシュミレーションルームに移動します」

 ブラックジャックが語るや、パネルを操作する。すると、床がエレベーター よろしく地下に移動し始める。SPGを除く五人は大慌てだが、お構いなしに部屋の床は地下へ降りてゆく。
 やがて、彼女達はアジトの最下層と思われる巨大な空間にたどり着いた。
空間の天井は ドーム状になっており、地面は何もない、広々とした殺風景な空間だ。

ブラックジャック:「…ここのシュミレーション室は厚さ20メートルのコンクリートに覆われているので、多少の 大規模な戦闘では崩れる心配はありません。よって、思う存分その強化服の力を堪能する事が出来るでしょう…では、シュミレーション用のターゲットを用意します」

 ブラックジャックの操作で、 何もない空間が瓦礫の山に変わる。そしてその光景の中に、数匹の怪獣の姿が現われる。

ブラックジャック:「では、どなたから強化服の力を試してみますか?」

 真っ先に 身を乗り出したのは、もちろんエースだ。

エース:「俺に決まってんだろ!」

 エースが瓦礫の山に降り立つと、エース以外の部外者のいるエレベーター式の床に、バリアーが 張られる。そして、ブラックジャックが無線でエースに指示を与える。

ブラックジャック:「これより、強化服に装備されている武器及び装備の説明を行います」


 十数時間前に受けたブレスの説明を丹念に思い出し、エースは不敵な笑いを浮かべた。そして、自分達が本当にブレスの威力を試してみたい本当の相手を見つけた。

スネーク: 「見付けたっス!」

 スネークが指差した相手は、市長の要請で市民の救済に奔走するJPPGだ。

エース:「さぁて…一丁、遊んでもらうか、俺達と…」

 JPPGが 工事現場で工作機械の暴走の処理にあたっている現場を見付けた五人が、早速彼女達の前に姿を現す。

ブレード:「〜あんた達、誰?」

ブルー:「私達に レスキューの依頼なら、ちょっと待ってね」

リトル・アートロー:「…ふ〜ん、バッタモンPPGって、初めて見たけど、大した事、なさそうみたいっすよ、エース?」

エース:「よう、嬢チャン達」

ブライト:「あの、私達は…」

エース:「俺達と、遊んでくれよ!」

 エースが言葉を発したと同時に、ブレスの文字盤を 押す。他の四人もエースの後に続く。

…バリバリバリバリバリバリ!!!

 五人の全身をまばゆいばかりの稲妻の光が包み込み、そのまぶしさに JPPGも思わず目をふせる。
 光が収まり、正面に注意を戻したJPPGは、驚嘆した。
 目の前の唐突に現われたチンピラ風の男五人が、一瞬にして未来風の強化服に身を包んで いるのだ。

エース:「さあ偽者PPGの嬢チャン達、俺達と楽しく遊ぼうぜ!」

 三人は瞬時に直感した。この五人は悪党だ、と。
 ブレードが身構えるよりも早く、 リトル・アートローの8本の副手が痛烈な連続攻撃を繰り出し、彼女の小さな体がコンクリートの壁にめり込む。

ブライト、ブルー:「ブレード!?」

 だが、ブルーが一瞬、 ブレードに視線を向けた瞬間、グラバーの熱線ビームが彼女の全身に炸裂した。
 そして膝をついて姿勢が崩れた所で、ビッグ・ビリーがブルーの脚を掴み、まるでマンガ映画のように振りまわし、地面に交互に 叩きつける。

 ただ一人身構える事が出来たブライトも、正面のエースとの視殺戦の真最中だった。
 だが、ブライトが注意を正面に捕われている間隙を縫って、スネークの金属の触手が彼女の両腕に巻きつく。
 身動きの取れないブライトのミゾオチを、エースの余裕のボディーブローが襲う。
 下から上へ拳を内臓の中にねじ込むように、執拗かつ強烈なタメの効いた拳がブライトの小さな身体に炸裂する。
 さすがにコピーPPGとは言え、強化服で通常の数百数十倍にまで強化された攻撃に、ブライトも嗚咽すら許されずに、涙を浮かべて悶絶した。
 さらに気絶しかけた所で、彼女を捕らえた触手から エネルギー衝撃波が流れる。
 悲鳴をあげる事も、気絶する事も出来ず、ブライトはその場に崩れ落ちた。

 それを目の当たりにしたブレードが反撃を試みるも、五人の動きはJPPGのスピードを完全 に見切っていた。

エース:「〜大したモンだぜ!この秘密兵器は!」

 先にシュミレーションで強化服の性能を堪能していたとは言え、目の前の敵を蹂躙する快感に、エースは 歓喜に打ち震えた。
 ブレードのスピード全開の攻撃も、エースが背中に打ち下ろした一撃で脆くも崩れた。

スネーク:「なあエース?」

エース:「…何だよ、 いい所なのに!」

スネーク:「この強化服って、確か元々は、PPGのスーパーパワーに対抗する為に作られたって、言ってましたヨねえ?」

エース:「それが どうした?」

スネーク:「つまり、こいつらの強さって、PPGと…」

リトル・アートロー:「同じ位か、PPGより弱っちいって事?」

エース:「好都合じゃねえか!俺達はこの嬢チャン達と戦いに来たんじゃないんだぜ!」

ビッグ・ビリー:「…んじゃあ、何…しに来たの?」

エース:「言ったろ… 遊びに来たってなァ?」

 さすがにエースを除く四人は、余りの強化服の威力に戸惑っている様子だが、エースはお構いなしだ。

ブルー:「いい加減 にしてぇ!!!」

 激昂したブルーが、出力最大のビーム攻撃をエースに見舞う。
 だが、それを浴びたエースは涼しい顔で子分たちに語る。

エース:「おい野郎共、 あの嬢チャンはまだ、遊び足りないってよ…」

 エースの合図と共に、子分達の攻撃が一斉にブルーに浴びせかけられる。

 それから数十分。
 騒然となった工事現場の片隅に、使い古した雑巾のように なって倒れているJPPGの姿があった。
 しかし、騒動を聞きつけて集まった群集の多くは半ば、諦めの表情で彼女達を見つめていた。

 所詮は、複製品か。
 観衆の心理は、この一言に集約されて いた。

 一方、調子付いたギャングリーンギャングの一団は、強化服を装着したまま、大通りを闊歩していた。

エース:「ハハハハハァ…最高の気分だぜ!」

スネーク:「本物のPPGをボコボコにした訳でないのは複雑な心境っスけど、結果オーライってな所スかねえ?」

ビッグ・ビリー:「エース!俺、もっと遊びたいよぉ」

エース:「OK!前祝だ!!あそこのショッピングモールでパーッとやるかぁ?」

子分達:「賛成ーッ!!!!」

 そのどんちゃん騒ぎの 一部始終を、プリンセスはアイスココアを片手に、お気に入りのソファーに身体を預けて、あきれた調子で眺めていた。

プリンセス:「…チンピラ相手に傷一つ負わせられないなんて… 拍子抜けもいいトコだわ…馬鹿みたい」

 その様子を、SPG三人は眉一つ動かさずに観察していた。そこに、ブラックジャックに向けたプリンセスの指示が飛ぶ。

プリンセス: 「…露払いはあの五人に任せるワ。あんた達は引き続き脳ミソ猿とオカマ野郎のPPG達の監視を続けなさい」

ブラックジャック:「…了解」


 その日の夕方。
 ギャングリーンギャングに負けて放置されたJPPGを取り囲む群衆は、時間と共にその数を減らし、日が暮れる頃までに、彼女達を見守る市民はいなくなっていた。
 苦痛と屈辱の余り、血と埃にまみれた三人の瞼に、涙が滲む。

 やがて、騒動を聞きつけて蒼白の表情でマサトシと秘書べラム、バルドの三人が工事現場に駆けつけた。
 服が汚れるのも構わず、 三人は満身創痍のJPPGを抱き上げる。
 秘書べラムは彼女達が味わったであろう敗北の屈辱を思って、唇を噛み締めた。
 バルドは目の前の姉達の哀れな姿に、すっかり取り乱した様子で、抱き上げた ブルーを介抱していた。
 そしてマサトシは、哀れな彼女達に対して何の助力も与えられない自分の無力を呪って、悔し涙を流した。
 彼の涙が頬を伝って、泥だらけのブライトの頬に滴り落ちる。

ブライト:「…マサトシぃ…あたし、あたし…悔しいよぉ…」

 瞼の下に一杯の涙を浮べて、ブライトがようやく搾り出したのは、この一言だった。
 それを聞いたマサトシは、 ブライトの心情を想って、しっかりと彼女の身体を抱きしめた。

 御互いに泣き止んで落ち着いた所を見計らって、秘書べラムがマサトシに言った。

ミス・べラム:「気持ちは 分かるわ…でも今は、この娘達の手当てをしないと…」

 その言葉に同意したマサトシは、秘書べラムの車に急いでJPPGを運び込むと、真っ先に病院へと向かった。

 その晩、JPPGが 担ぎこまれた病院で彼女達の診断結果がマサトシ達に言い渡された。
 全治1ヶ月。
 幸い命に別状はないものの、治療をうけて包帯だらけの痛ましい姿になったJPPGの肉体的、精神的ダメージは 深刻なものであった。
 身動きすらままならない状態の三人の看病は、専門のスタッフ以外にも、健気にもバルドが買って出ていた。

周囲が完全に暗くなり、夜になっても、マサトシは頑として帰ろうとは しなかった。強烈な自責の念が、彼の全身を支配していた。

ミス・べラム:「貴方の気持ちは分かるけど…時と場合によって貴方にだって出来る事と出来ない事は認めなくちゃ…余り自分を 責めてると…あの娘達が逆に可哀想よ!こういう時こそ、貴方がしっかりしなくちゃ…」

マサトシ:「…分かってます…でも!」

 秘書べラムが必死にマサトシを宥めようとする。 しかし、宥める側の秘書べラムの心も、重かった。

マサトシ:「…僕は医学の知識も、科学の心得も知らない!せめて…僕の身体か、命を切り与えてでも、彼女達の為に役に立ちたいのに… 僕にとって、これほど情けなくて悔しい事はない!僕は…一体…」

 両手の拳を血が滲む程握り締め、マサトシは振り絞る様にこの言葉を語った。自分の無力に対する怒りと絶望で、肩が震えている。
 確かにコピーPPGはコピーでしかないのは明らかだが、正義を愛する心は本物と同じはずだ。なのに…
 マサトシは心の中で、自分に言い聞かせるように繰り返し叫んだ。しかし… 

声:「貴方は決して無力なんかじゃありませんわ!」

その声に我に返るマサトシ。そして、声がした方角に視線を向ける。
 そこには、ネットの画面上で見たことのあるPPGの姿があった。

 それは、イギリスのジーンが創ったEPPGと、フランスのマーシュが創ったFPPGだ。

ベル:「ジーンとマーシュが先にマサトシの元に行ってくれって、私達を先にここに よこしたの。二人は後でここにやって来る事になってるわ」

マサトシ:「ジーンと、マーシュが?…でもどうして君達が、ここに…?」

バーン:「JPPGが緑色の チンピラ五人にボコボコにされた事は、ネットで知ったんだ。それで、ジーンとマーシュが相談して、俺達とFPPGが先にここにやって来たって事さ」

バード:「傷や病気を治すのなら、 私達FPPGの役目だもん!任せておいて!!」

ミス・べラム:「でも、それならEPPGもどうして?」

ブレア:「FPPGは戦闘ダメージの度合いによって、治療の際に 消費するエネルギーが違うんだ。話に聞くとJPPGは重傷らしいから、」

ボルト:「俺達もFPPGの助手として一緒にやって来たってのさ!」

ベル:「詳しい話は後で! 今は治療が先よ」

 病室に向かうベルとバード。その後姿を見守るマサトシの手を、ブルームが引っ張る。

ブルーム:「…傷や病気は二人に任せておけば大丈夫…でも、肝心な所が 危ないの…」

 余りに控え目な態度で現われたブルームに、マサトシも秘書べラムもぎょっとした。存在感が薄く、うっかり見落とす所だった。

ブルーム:「…マサトシの力がどうしても 必要なの…一緒に来て!」

 一方的にブルームにせかされて困惑するマサトシだったが、彼女の言う通り、JPPGのいる病室へと向かう。

 マサトシとブルームが病室の中に入ると、三つのベッドの 間にベルとバードが入って、両の手をJPPGにつなぎ、自分達のエネルギーを送っていた。
 バルドは休まず看病していて、何時の間にか付かれてベッドに伏して眠っている。ベルとバードはバルドをそっとした まま、JPPGの治療に専念していた。そこに、ブルームが向かって右端のブルーの左手を取り、空いた手はマサトシの右手を握る。
 全体としてJPPGとFPPGが手をつなぎ、その向かって左端にマサトシが いる格好となった。

ブルーム:「今のJPPGは心の傷も大きく負っているの…このまま身体が治っても、心の傷が身体を蝕んでしまう。だから…」

マサトシ: 「…うん!」

 ブルームの説明にはまだ続きがあったが、マサトシは瞬時に理解した。三人の力に成れるなら、心を切り与えても構わないと、彼は固く意を決した。

 やがて、ブルームの身体が淡く 光り出すと、マサトシはちょうど夢現のような感覚を覚えた。
 そこから先の意識を、彼は覚えていなかった。


 次にマサトシが目を覚ました時、彼は病院のロビーのソファーに座っていた。
 彼の膝の上には、同じく病室にいたはずのバルドの頭が乗っていて、静かな寝息を立てて眠っていた。
 その脇には、 病室で治療を続けていたはずのFPPG3人が眠っていた。三人とも治療の際に大量のエネルギーを消費したらしいのか、ぐったりとして泥の様になっていた。
 だんだん頭が覚めてきてそれまでの状況を冷静に思い出す事が出来、マサトシは熟睡するバルドを起こさない様に慎重に立ちあがり、病室に向かった。
 周囲を見回して気が付いたが、時計の針は 午前4時、すなわち夜中を回っていた。
 病室に入った時、そこに安静にしているはずのJPPGはいなかった。ついでに全身を覆っていたはずの包帯がベッドの上に散らばっていた。

マサトシ:「直ったのかな?」

 何の確証もないまま、病院の外に出る。
 何気に外を少し歩くと、街灯の下で蠢く6つの影があった。
 その内の三つの影が、真っ先にマサトシ目掛けて飛んで くる。

 それは、先程まで苦痛に喘いでいたはずのJPPGであった。

JPPG:「マサトシーッ!!」

 マサトシが彼女達の姿を確認するよりも早く、三人が矢のように飛んできて 抱きついた。
余りの勢いでその場にひっくり返るマサトシ。
一方の三人は彼の顔や身体に抱きついて、メ一杯の愛情を示す。そんな彼女達の様子を苦笑しながら眺めているのは、EPPGだった。
 改めて JPPGの一人一人の姿を確認したマサトシは、先程までの重度の傷が完治している事に驚いた。そして、改めて安堵して、歓喜の涙を流した。

ブレード:「心配かけてゴメンなさい…でももう 大丈夫だよ!」

ブルー:「マサトシが、私達をずっと励ましてくれていたもの…ねえ?」

その言葉に、一瞬マサトシは戸惑った。

マサトシ:「でも、僕は…」

そして、次の瞬間、理解した。
 ブルームが行う治療の際、自分は自らの血肉や心を切り与えてでも、JPPGを救いたいと願ったはずだった。
 そして、実際にその通りになったのだ、と彼は思った。
しかし、身も心も切り分けてでもと願った割に、実際に身体や心の一部を失ったという感覚はなかった。いや、むしろ心が豊かになった感すら、彼には思えた。

バーン:「ブルームの精神治療には、 しばしば第三者の精神を倍増させて直すって、ジーンが言ってたけど…本当なのかな?」

ミス・べラム:「それはきっと、本当の事だと思うわ」

マサトシ:「ミス・べラム?」

 どこから現われたのか、マサトシ達の後ろに秘書べラムが立っていた。

ミス・べラム:「姿形のあるものは切り分けると小さくなってしまうけど、心とか愛とか…形のないものは切り分ければ 分ける程、大きく豊かになっていくものよ。きっとブルームの治療って、そういうものだったんなんじゃないかなって…貴方達を見ていて、そう思うの」

言い得て妙な理屈だな、とマサトシは思ったが、今の自分の すがすがしい気分を前にして、きっとそういう事もあるのだろうと納得した。

ブライト:「…でも、勝手に病室抜け出しちゃって大丈夫かなあ?バルドの事も心配だし、FPPGの事だって…」

ボルト:「ああ、それなら心配御無用!俺達が吸収したエネルギーをFPPGに分け与えてやればいいんだから」

ブレア:「その為に、ここに来る前にアリゾナの軍事施設から 少しばかり電気を拝借してきちゃったけど…ま、大丈夫でショ」

 その姿と同じく、型破りな言動にマサトシは面食らった。

マサトシ:「それは分かった…けど」

ブレード: 「余りバルドを心配させちゃマズイから、そろそろ戻らなくちゃ」

ブレア:「そうそう!あの娘にも会いたかったんだった!楽しみにしてたんだぁ」

バーン:「でも ヘビメタとかR&Bはナシよ!」

ボルト&ブレア:「え〜???」

バーン:「アンタ達二人は特に騒がしいから大人しくしてな!」

ボルト&ブレア: 「そんな〜!!」

 たわいのない会話をよそに、マサトシ達が病院の玄関に戻ってきた時、玄関の脇に一組の老夫婦の姿があった。
 JPPGたちには、その老夫婦に見覚えがあった。自分達が工事現場で倒れていた時、 周囲にいた市民達の中の一組だ。

老紳士:「おお…お嬢ちゃん達、無事だったのかい…?」

 まるで身内を心配するかのような狼狽振りで、二人はJPPGの前に駆け寄る。老夫婦の素性を知らない マサトシとEPPGは、どこか訝しげな思いで見守っていた。

老婦人:「…実は私達は、貴方達に謝りたくて…」

 意外な二人の言葉に、あっけにとられる一同。

老紳士: 「私達は…いや、この街の住人達全てが、今や行方不明のPPGの代りに、この子達に街の平和を守ってもらっている…それなのに、あの場では、正直…私達は、応援は愚か、何の力にもなれなかった…それにも増して…」

老婦人:「あの不良達に一度負けた位で、私達は、あの子達に慰めの言葉をかける事も忘れて、ただコピーというだけで役立たず扱いして、見捨てて帰ってしまった…だが、それはとんでもない間違いだった のです」

老紳士:「例えどんな姿をしていても、このタウンズビルを守るのは、PPGなのに変わりはない、それは私達市民の誇りのはずだった。私達は、守られる事に慣れた余り、かけがえのない誇りを 忘れてしまっていた…その事が腹立たしくて、悔しくて、情けなくて…」

 マサトシに抱きかかえられたJPPGの手を握り、振り絞るような声で詫びの言葉を語る老夫婦。

ブライト:「〜泣かないで、 おじいさん!」

ブレード:「そうだよ!悔しいのは貴方達だけじゃないし…スーパーヒーローは、こんな所でいじけてじゃ駄目なんだ、そうだろ?」

ミス・べラム:「目撃者の話だと、 ギャングリーンギャングは何か、特別な服装をしていたというから…きっと、あの強さにも秘密があるに違いないわ」

ブレア:「ジーンが来てくれれば、その秘密だってすぐに分かるはずだから、まずは作戦 立てなくちゃ、ね?」

 この時点でようやく老夫婦はEPPGの存在に改めて気付いた。

老婦人:「あ…貴女達も…PPGなの?」

ボルト:「やっと気付いたのォ?俺達、 JPPGの応援にやって来たんだ!」

バーン:「それに、他にも仲間は沢山いるから、そんなにめげないでね!」

老紳士:「…約束しよう…私達はもう、PPGを見捨てたりは しない!例え世界の終わりが来ようとも、最後まで嬢ちゃん達の勝利を、信じるゾ!」

ボルト:「まっかせておいて!」

ブレア:「今度はあたし達だっているんだから、リターンマッチは 絶対勝つからね!」

バーン:「アンタ達が威張ってどーすんのよ!」

マサトシ:「…おじいさん、おばあさん…信じてくれるだけで十分ですよ。JPPGはもう、悪党達には負けたりは しませんよ!」

ブルー:「うん!」


市長:「お〜〜〜〜〜いおいおいおい…泣かせる話じゃのォ」

 どこから沸いて出たのか、マサトシ達の後ろには、先程の光景を目の 当たりにして猛烈に感動している市長が立っていた。

ミス・べラム:「市長!?いつの間にいらしてたんですか?」

市長:「いやあ、JPPGが入院したっていうんで朝一番に見舞いに やって来たんじゃが…君達なんで外におるんじゃ?」

マサトシ:「〜えっとぉ、色々と特殊な事情がありまして…JPPGならこの通り、傷は治りましたから…」

市長:「それはめでたい! …所でそこの派手目な嬢ちゃん達、誰かね?」

 市長が指差したのはまぎれもなくEPPGだ。そこに、秘書べラムが耳打ちする。老夫婦がいる手前、彼女達三人の素性を話せないのであえて、小声で話したのだ。

市長:「〜それははるばる遠い国から御苦労じゃったのう!こちらも頼もしい正義の味方が増えて大歓迎じゃよ!」

 EPPG一人一人の肩を叩きながら、挨拶を交わす市長。その内、何かを思い出したように、 この言葉を語った。

市長:「…あ、そうじゃ!実は早速、嬢ちゃん達に頼まれて欲しい事があるんじゃが…」

 途端に、一同の注視が市長に集まる。
 早速スーパーヒーローとしての復帰の仕事か、 と一同の拳に力が入る。だが… 

市長:「ワシのジャムの蓋が取れなくなってのう…でないとトーストが食べられんのでなァ」

 一同、心の中で思いっきりずっコケる。そして、

一同:「市長!!!!!!!」


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